「――で?何が書いてあるの」
「教えないっ。ついて来ないでっ」

手の中のくしゃくしゃになったメモを握り締め、足早に自室に向かうフランソワーズ。
真っ赤な顔をして胸元を押さえつつ。
その後を、左頬だけを赤くしたジョーが続く。

「フランソワーズっ」
「知らないっ。ジョーのばか!」

目の前でドアを閉められた。

 

***

 

全くもう・・・!

鏡に向かい、自分の胸元をチェックする。
彼がつけた痕は誰が見ても、どう見ても、やはりソレとしか見えず・・・例えば、どこかにぶつけてできた打撲の痕とは誰も信じてくれなさそうだった。

ジョーのばか。

ため息をつく。
――いつもなら。
フランソワーズがバレエのレッスン着姿になっても見えない、誰にもわからない場所にマーキングをする。
そのくらい、細心の注意を払ってくれる彼なのに。

そんなにこのメモが気になったのかしら?

手の中のメモの皺をそうっと伸ばしながら開いてゆく。
風にあおられ、屋根に引っかかっていたそれはインクの文字も既にかすれてしまっていた。

数行の文字の羅列。
ただそれだけのメモ。
けれども、中身は。

――やっぱり、ダメ。見せられないわ。――誰にも。
特に、ジョーには。

 

***

 

メモに何が書いてあったのかが判明したのは、彼女の胸の痕も薄くなった頃のことだった。

ジョーの誕生日に。