「イルミネーション」

 

 

 

ナインがじっと見つめていたのは、テレビに映った表参道の光景だった。
街路樹にLED電球をつけて点灯してできたイルミネーション。それは、光輝く道のようであった。
それをナインはじっと無言で見つめていたのである。

いつものように朝のコーヒーを飲みにギルモア邸にやってきたナイン。
その彼のために、これまたいつものようにコーヒーをいれたカップを持ってリビングに入って来たスリー。
ナインの前にカップを置くと静かに隣に腰掛けた。が、ナインはじっとテレビ画面を見たままだった。
スリーはナインの横顔とテレビ画面を交互に見て、そして口を開いた。

「綺麗ね。パリを思い出すわ」
「ふうん、そう思うのかい?確かにパリを模したと言っていたが」
「やっぱりね!」

そしてスリーは、ちょっと期待するようにナインを見た。
しかしナインは横顔をこちらに向けたままだった。
スリーはちょっともじもじして、そして何か言おうとしたがナインの方が早かった。

「――こんなの、わざわざ見に行く奴なんているのかなあ。こうしてテレビで観ると確かにロマンチックだけど実際に行ったら物凄い人混みだと思うぞ。ロマンチックのかけらもない。わざわざ行く奴の気が知れないね」

そうしてカップを持ち上げ、コーヒーをひとくち飲んだ。

「大事なひとと二人っきりでどうぞだなんて言ったって、二人っきりなんて状況には絶対ならないだろ。いんちきだ。こうして客集めしているだけの話だな」

言い切って、再びカップに口をつける。
そしてやっと隣のスリーの視線に気がついたようで、カップの縁からスリーを窺った。

「――なんだい?」
「う。ううん。なんでもないわ」

スリーはナインから視線を引き剥がすと、両手でくるむようにカップを持った。
そのまま温かさを味わうようにじっとしている。
カップのなかの黒い液体に映るスリーの顔は、どこか寂しげだった。


「フランソワーズもそう思うだろ?」

ナインはカップを置くと続けた。

「こんな人混みに行ってみろ。きみなんかあっという間に迷子だぞ。僕はそれを捜すのなんか絶対にイヤだね」

スリーは肯定も否定もせず、ただ曖昧に笑みを浮かべた。


「――だから、僕の手を絶対に離さないこと。いいね?」

「えっ?」


スリーがナインの顔を見ると、ナインはふっと視線を逸らせた。微かに頬が赤い。


「――返事は?」


怒ったような声。でも、ほんのり嬉しくなるのは何故なんだろう?


「……はい」