ミッションの後、ずっとジョーはごねていた。
誰が何を話しかけてもむすっとしたまま答えないし、食事もろくにとろうとしない。


「おいおい、どうしちまったんだよアイツ」

ジェットがフランソワーズに耳打ちする。

「何か落ち込んでいるのか怒っているのか…わからねーけど、どうせお前さん絡みだろう?なんとかしてくれよ」
「別にジェットに迷惑かけてないでしょ」
「そういう言い方はないだろーよ」
「…」

フランソワーズはただため息をついた。

ジェットに言われるまでもなくわかっている。原因は自分だということを。


――まったく、もう。


ジョーが拗ねているのは自分のひとことに間違いない。

「でも、そんなに気にすることかしら」

 

 

***

 

 

「フランソワーズの気持ちはよくわかったよ」

ややぶっきらぼうにジョーが言う。

「あらそう、ありがとう」

対するフランソワーズはすまして答える。

その繰り返し。

ジョーはどうかわからないが、フランソワーズはいい加減うんざりしてきていた。

しつこいし。

暗いし。

ともかく、地を這うような低音の声はなんとかならないものだろうか。


「…ふん。どうせ、僕のことなんかそれ以上好きになる価値がないと思ってるんだろう」

どうせ。

僕なんか。


フランソワーズの最も嫌いな単語だった。


「あのね、ジョー。そういう意味じゃない、ってわかってるでしょう?」

まったく手間がかかる。
フォーミュラマシンに乗っている時は自信満々なのに、どうしてこういう問題には弱いんだろう。

「もっと自分に自信を持ってちょうだい」

けれどもジョーは無言だ。

「この私が好きになったひとなのよ」
「…」
「もう。いったい、何回好きって言ったらわかるの?」
「…」
「えっ、なあに?聞こえないわ」
「………たくさん、言って」

ジョーの口許に耳を寄せたフランソワーズに、小さい声でジョーは告げた。

「そうしたら、自信がつくような気がする」

ぼそぼそと口の中で言われ、フランソワーズは溜め息をついた。

「もう。ずるいわ、ジョー。自分は言わないくせに」

するとジョーが顔を上げた。まっすぐにフランソワーズを見る。

そして。

「もっと好きになる。僕には限界はない」

きっぱりと言い切った。

フランソワーズはなんだか胸が詰まってとっさに声を出せなかった。

するとジョーの声が少し曇った。


「…ダメかな」

 

 

***

 

 

しばらくの後、ジョーの機嫌は直っていた。

フランソワーズが彼に甘え倒したからなのに他ならなかった。