「特典は?」
注:オトナ要素満載ですので苦手な方は御注意下さい。
    日曜日。 ジョーの仕事は休みである。 フランソワーズの場合はパン屋の忙しさはその時期によってさまざまだが、基本的に日曜日の午後は空いている。だから日曜午後はバレエ教室に行くことになっていた。 といってもすることは殆ど無い。 以前のように車があればその整備や洗車をしたところだが、生憎今は所持していない。 タタミの上でごろごろしているのも飽きてきて、ジョーはぼんやり天井を眺めていた。 「特典って……なんだろうなぁ」 きっとものすごくいいものに違いない。それもジョーにとっての。 「……モノ、じゃないよな」 何かプレゼントというわけではないだろう。大体、「今日のゆうごはんはなんでしょうクイズ」だって即興なのだ。 「おかわりしてもいい権利、とか?」 いや、おかわりなんていつでも可能なはずだ。 「……明日のお弁当にプリンがつくとか」 それならば冷蔵庫を覗けば一発である。が、そういうことはなかったように思う。 「もっと別のことなのかな」 例えば、ちゅーしてくれるとか。 「いや、違うな」 二人で暮らしてわかったのだが、フランソワーズは不意打ちの軽いちゅーが好きなのだ。 「……まさか」 それ以上のこと、とか……? いやいや、それはないだろう。 いや、それともありなのか? そうなのか? あるのか? いやでもいくらなんでもそれは。 タタミでぐるぐるしているところを見られ、ジョーは無言で身体を起こした。 「今日は何してたの?」 フランソワーズがジョーの肩を抱き締め、その頬に軽くキスをした。 「ダメよ。私が帰るのを待ってたなんていうのは」 そう言うとフランソワーズはジョーの唇に軽いキスをした。 「ひとの顔色を勝手に読むな」 その瞬間、ジョーの瞳が底光りした。 「――だったら、今何を考えているか読んでみろよ」 ぎゅうっと抱き締められると同時にタタミに転がされ、ブラウスのなかにジョーの手が侵入してきた。 「ちょっと待ってジョー」 ジョーはフランソワーズの唇を塞ぎ言葉を封じた。 「んっ……(壊したら今度は許さないわよ?)」 ジョーは諦めたように手を引き抜くと、ブラウスのボタンを丁寧にはずし始めた。 が、その時、外階段にひとの話し声がした。 ふたりの部屋は角部屋ではあるが、一番手前であり階段のすぐそばなのだ。 「んん。ジョー?」 しかしそれは無理な相談だったようで、じれったそうに腰の角度を変えもじもじと動かし始めた。 「だからちょっと待てって」 悲鳴のような声に、ジョーは慌てて唇を塞いだ。 「う、……(だからちょっと待てってば)」 堪らずジョーはフランソワーズを揺らし、そして――果てた。 しかし。 かといって、真夜中なら大丈夫かというとそうもいかない。 ジョーの頭を胸の上に抱き締め、その髪を撫でながらフランソワーズが問うた。 「ウン?……特典は何かなあってね」  
   
       
          
   
         したがってジョーはしばし独りの時間を満喫するというのが日曜午後の過ごし方だった。
         だからジョーがすることといえば、新聞を読むか近くのコンビニまで行くかそんなところだった。
         バレエ教室も歩いて数分という商店街のなかにあるから、送迎も必要ない。
         ジョーは迎えに行くよと言ったのだが、小さい子じゃないんだからと断られた。
         「……暇だなぁ……」
         だったら洗濯や買出しといった家事の手伝いでもすれば良いのかもしれないが、ジョーは洗濯機の動かし方を知らなかったし、勝手に買出しに行くのはきつく止められていた。以前、よかれと思って買い物に行き、無駄遣いと叱られたのだ。
         買い物に行く時は必ずフランソワーズ同伴と決まっていた。
         こうして後は寝るくらいしかすることがないのだ。
         「――そういえば」
         気になることがあった。
         先日の「今日のゆうごはんはなんでしょうクイズ」の正解したらもらえたはずの「特典」。
         あれから何度訊いてもフランソワーズは教えてくれなかった。いつか正解したら教えるわと言うだけで。
         ならば正解すればいいのだが、ジョーにとってそれは難問だった。
         作っている最中に帰ってきてキッチンを覗いてもさっぱりわからないのだ。
         それっていったいどんなものなのだろうか。
         ジョーは自分にとって物凄く嬉しいものや楽しくなるものを思い浮かべてみることにした。あまりにも非生産的であるが、今は本当にこれしかすることがないのだ。
         ジョーがそれでびっくりするのを見るのが楽しいらしい。
         思いもかけない時に、頬や髪に軽くキスしてくるフランソワーズ。アムールの国の彼女にしてみれば、愛しいものを見たときの当然の反応ということらしいのだがジョーは中々慣れなかった。
         ジョーがぐるぐる考え始めたところで、フランソワーズが帰宅した。
         「ただいま。……ジョー?なにしてるの」
         「え。別に」
         なんともきまりが悪い。
         「別に。……なにも」
         「ジョーったら」
         「……言ってないだろ、そんなこと」
         「ふふ。顔にかいてあるわ」
         「だってジョーったら読みやすいんだもの」
         「えっ?……きゃっ」
         これらが同時に起こったのだ。ジョーの手の早さには毎回驚かされる。
         「イヤだ」
         「だって、ボタン壊さないでね?」
         「わかってるよ」
         「わかってないわ、……ほら、あんもう」
         「うるさいなぁ」
         もちろん彼女のブラウスの中の手は仕事を休んではいない。
         キスを深くしながら、同時にブラジャーのなかに侵入する。
         「……(メンドクサイなぁ)」
         もちろんキスをしたままだ。
         そしてブラウスを開くと両肩からブラジャーの紐を落とし、そうっと全体を下にずらした。こうすればホックを外さなくてもとりあえず目的は果たせる。しかも、一般的な基準でいえば決して豊乳ではないフランソワーズの胸が大きく見えるのだ。我ながら必殺技をあみだしたもんだとジョーはとても気に入っていた。
         もちろんフランソワーズがどう思っているのかは知る由もない。
         そのお気に入りの技を駆使し、ジョーはフランソワーズの唇から離れると既に屹立しているそれを口に含んだ。もちろんその間も手は留守にはなっていない。口に含んでいないほうは全体を手のひらで包み好きな形に変える作業に従事し、同時にスカートをまくりあげショーツの中に侵入していく。
         フランソワーズが可愛い声を上げたのに満足し、ジョーはショーツの奥の熱源探索に全力を注いだ。
         ジョーの指の動きに伴い、フランソワーズの腰がびくんと跳ねる。
         可愛い声が甘く切ない響きを帯び、ジョーはやっと手を引き抜くとゆっくりじらすようにショーツを下ろした。
         そして自らのジーンズと下着も下ろし、フランソワーズの懇願するような蒼い瞳をじっと見つめたあと深く繋がった。
         ジョーの律動に合わせ、フランソワーズが可愛い声を上げる。その声に促されるようにジョーの律動も激しくなってゆく。
         「!!」
         ジョーははっとして静止した。
         そして階段を上がってきた奥の部屋の住人はふたりの部屋の前の外廊下を通らねば自分の部屋に行けない造りになっている。
         今までは空き部屋だったから気にならなかった。が、複数のひとが話しながら通るとこうも話し声が聞こえるものかとジョーは愕然とした。
         向こうの声が聞こえるということは、もちろんこちらの声も聞こえるということで……
         「……ジョー?どうしたの」
         「しっ。黙って」
         「え?」
         不思議そうな瞳のフランソワーズを見て、こういう状況では彼女が周囲を気にかけるのは無理だろうなぁと思った。
         それどころではないのだろう。
         今も、不意に止まったジョーにもどかしそうにしている。
         「ちょっと待って」
         「そんなの無理よ。わかるでしょう?」
         「わかるけどさ、……だから待てって」
         「イヤ」
         「フランソワーズ。声が聞こえたらまずいんだって」
         「……え?」
         「ひとがいる」
         「ええっ!?」
         そのまま舌を絡め、声を完全に封じてしまう。が、それが刺激になったのだろう。フランソワーズの体がびくんと跳ねジョーをきつく締め上げた。
         「っ!!(知らないわ、ジョーのばか)」
         汗びっしょりになって、互いの鼓動が落ち着くまでの間。
         ジョーはちょっと反省し、これからの対策について考えていた。
         今までは外廊下の人通りなど考えなくてもよかった。しかし、住人がいる現状では今まで通りというわけにはいかない。真夜中以外はいつこうしてすぐそばを誰かが通るかもわからないのだ。
         フランソワーズの可愛い声を見知らぬひとに聞かせるわけにはいかない。
         このへんは夜は静かだから、少しの振動や音も夜気をつらぬき周囲に響くだろう。
         当然、同じ建物の住人の耳にもそれとわかるに決まっている。
         ――さて、どうしたもんだろうなぁ……
         「ジョー?……何を考えているの?」
         「特典?」
         「うん。ゆうごはんを当てたらもらえるやつ」
         「まだ気にしてたの」
         「うん」
         「――当ててからのお楽しみよ」
         「……だと思った」
