−10−


「フランソワーズ」
「・・・なに?」
「君は・・・ほんものだよね?」
「・・・えっ?」

霞がかかったようにぼうっとしていた頭が瞬時に覚醒する。

・・・もう。ジョーのばか。
醒めちゃったじゃないの。

けだるい身体を横たえてまどろんでいたのに。

まだ、あなたの身体の熱さが残っていて。
私の髪をそっと撫でているあなたの手が心地よくて。
そのまま眠るつもりだったのに。

「どうしてそんな事を訊くの?」
ジョーの瞳を見つめる。
「今の私が、ニセモノだって思う?」
「イヤ・・・」

微かに慌てたように、私の肩に唇を押し付けてくる。
「・・・ウン。ニセモノじゃないよね」
「そうよ?それともアナタはニセモノの私ともこういうコトをするの?」
「うー・・・・ん」
「うーん、じゃないでしょ?」
ジョーの頭をぎゅっと抱き締める。
「すぐ答えなかった罰として、もう一回」
「えーっ」
「できないの?」

ジョーの頭を離し、茶色の瞳を見つめる。
微かに笑むあなた。
「・・・そんな訳、ないだろう?」
そうして唇を合わせる。

「そうだわ。一度、訊こうと思っていたの」
「何を」
首筋に唇を這わせ、面倒そうに訊き直してくる。

「『僕たちは別に』の後に、何て言うつもりだったの?」
「んー?」
首筋から耳元に上がってゆく唇。息が熱い。

「僕たちは別に・・・ただ一緒に寝ているだけだよ?・・・ってね」
「・・・ばか」


−11−


ウマクイッタ。

ヤハリ「ホンモノ」ハ違ウ。


今度こそ慎重に進めなければいけない。

慎重に。

慎重に。潜行して・・・


−12−

ベッドサイドに置いたフランソワーズの携帯が着信を示す色に変わった。

けれども気付かない。

いまそこに注意を払うものはいない。

今は、お互いとお互いの事しか見えていない。

 

数時間後。

「フランソワーズ。携帯が光ってるけど」
「ん・・・メールだわ。たぶん」
「ふーん。こんな夜中にメールしてくるなんて怪しいな」
「もう。きっと間違いメールよ」
身体を起こし、携帯に手を伸ばす。

じゃれついてくるジョーを制して携帯を開く。

一瞬、鋭く息を吸い込む気配にジョーも身体を起こす。

「どうした?」
「――カール」
「カール?」
って、あの・・・コンピューターか?

「・・・どうして」
「見せて」
二人で見つめる画面には。

ただただ一面の文字。「カール」という文字ばかり。

「・・・なんだこりゃ」
「待って。長いわ・・・スクロールしてみる」

 

『僕は君を忘れたりなんてしない』

 

「――まさか。確か記憶部分は破損したはず」
「誰かが・・・」
フランソワーズが額に手をあて目をつむる。
「誰かが、私たちのことを・・・」

そうっと手を外し、目を開ける。

お互いがお互いの視線を捉える。

 

――あなたは、ほんもの?

 

――君は、ほんもの?