「おまじない」
―ブラインドデートのその後で(超銀)―

 

 

「しっかし、酷いよなあ。イキナリだぜ?」

フランソワーズの濡らしたタオルを頬にあてて、ジョーは不機嫌の極みだった。

「警告もなく、振り返りざまに一発浴びたんだぞ。僕だったからこの程度ですんでいるけどさあ」

隣を歩くフランソワーズは口元に笑みを浮かべたまま無言である。

「エスコートするのに肩を抱いただけじゃないか。それがそんなに悪いことか?それに彼女が泣いたのは僕のせいじゃない。くそっ、全く殴られ損だ」

フランソワーズは肩ではなく自分の腰に腕を回しているジョーを見上げた。

「・・・嘘つきね」
「え?何が」
「あなたよ」
「僕?」
「ええ」
「嘘なんてついてないよ」
「あら、そうかしら?」

すました顔のフランソワーズを見つめ、ジョーは怒ったように彼女を自分に引き寄せた。

「きゃっ。もう、ジョー。歩きにくいわ」
「うるさい」
「もう、何怒っているのよ」
「ひとを嘘つき呼ばわりするからだ」
「だって――」

とうとうくすくす笑いだしたフランソワーズに、ジョーは更に渋面を作った。

「――だってあなた、本当は上手くよけたじゃない」

繰り出された拳を見切って、最小限のダメージですむよう受けた。
完全に除けてしまったら、相手の立場もないし、それに第二波は除けられないかも知れないから。

「除けてないよ。――ホラ。ここ。こんなに腫れてる」
「はいはい」
「もっとちゃんと見てよフランソワーズ」
「もうっ・・・なんともなってないのに」

フランソワーズはやれやれと息をつくと、ちょっと背伸びして彼の頬にキスをした。

「いててっ」
「痛くないくせに」
「痛いよ」
「じゃあ、痛いのとんでけのおまじない、ね?」
「・・・・・」

痛いのはいったいどこに飛んでゆくのだろう――と思いながら、だったらもっと痛がればよかったなと思うジョーだった。