「ブラインドデートのその後で」
―新ゼロ―

 

 

「――やっぱり、ダメだなあ」

ジョーはギルモア邸に帰ってくるなり、しみじみとそう言った。
隣にいたフランソワーズはいったい何の話なのだろう・・・と首を傾げた。

「ダメって何が?」
「ん――」

ちなみに玄関先である。ストレンジャーを車庫に入れて、一緒に歩いてきたのだった。
いつもなら、フランソワーズを先に降ろすところだったが、今日はちょっと趣向を変えた。

そして二人とも――靴を脱ぐのに難渋しているのである。
フランソワーズはともかく、ジョーはかなり苦労していた。

「ジョー、だから言ったでしょう」
「いや、大丈夫」
「でも」
「イヤだ」
「だけど」
「ダメだ。離したらまた落ち込むよ?」

それは願い下げだったので、フランソワーズは黙った。
さっきだって大変だったのだ。
たいく座りで落ち込むジョーを立ち直らせるのは並大抵ではない。

フランソワーズは黙って――ジョーが片手で靴を脱ぐのを見守っていた。

そう、ふたりはずっと手を繋いだままなのだ。
手を離すとジョーがいじけるので、仕方なく――車を降りてからずっとこうなのだった。

ジョー曰く

「きみが他のヤツと手を繋いでいたから、僕も繋ぐ。許せない」

とのこと。

四苦八苦しているジョーを見つめ、フランソワーズは先刻のジョーの台詞を考えていた。

やっぱりダメだなぁ、っていったい何が?
手を繋いでいるとやっぱり不便だから・・・かしら?
だったら離せばいいのに。

やっと靴を脱いで上がったふたりはそのままリビングへ直行した。
手はやはり繋いだままである。

 

「――おう、お帰り」
「・・・お前ら仲いいな」

ピュンマやアルベルトが呆れたように言うのも聞き流す。
ともかく、フランソワーズとしてはジョーの望む通りにするしかないのだった。

「――ねぇ、ジョー?」
「うん?」
「さっきの、やっぱりダメだなあって何がダメなの?」
「・・・ああ、それね」

並んでソファに座り――もちろん手は繋いだままだ――握り締めているフランソワーズの手に素早くキスをしてジョーは言った。

「きみが他の男と一緒にいるのを見るのは耐えられないって意味さ」

「・・・だって、同じ009よ?」
「うん。だから大丈夫かと思っていたんだけど、でもやっぱりダメだった」
「・・・そう」
「うん。僕は僕のフランソワーズが一番だし、僕のフランソワーズが誰かの隣にいるのは絶対にイヤだ」
「あら、私もあなたが他の女の子と一緒にいるのを見るのはイヤよ?わかってる?」
「うん――わかってるよ」

きみが僕を信じてくれている限り、僕はきみを守る。絶対に、悲しい思いはさせないから。

 

 

「でも・・・ナインってちょっとかっこよかったわよ?」

 

ぽろりと言った一言で、ジョーはソファの上でたいく座りになってしまった。
呆れたフランソワーズがつん、と突くと、ジョーはたいく座りの姿勢のまま、ころんと転がった。
それでも顔をあげないのは立派と言うべきか。

ピュンマとアルベルトが大笑いしたのは言うまでもない。