「恋人繋ぎ」
―ブラインドデートのその後で(旧ゼロ)―
    二人とも無言だった。   ブラインドデートがなし崩しに終わって、ナインはスリーを連れて駐車場まで歩いていた。   ・・・そんなにショックだったのかなぁ。 自分のことは棚に上げて、隣のスリーをちらりと見遣る。 他のひとと手を繋いだだけで泣いちゃうなんて、さ。・・・これで「ファンの集い」ではハグしたり、ホッペにキスしたりしてるって知ったらどうなっちゃうんだろ。 この前ケンカした時にわざと言って泣かせたのだった。 ナインの手をすり抜けそうなくらい遠慮がちに握っているスリーの小さな手。   スリーが思い出したように目元の涙を拭った。   ――あーあ、また何か思い出してる。 ナインは口元に笑みを浮かべ、ちょい、と手を引いた。 「ジョー?どうしたの」 顔を寄せてじいっと見つめると、スリーの頬がぱっと染まった。 「な、何?」 そういえば、きみはきみで他の男に肩を抱かれていたんだっけ。 それはそんなにショックではなかったナインである。 ――が、それも落ち着いた今となっては、やっぱりあれこれモヤモヤするのだった。 だから――たまには肩を抱いてみようか。   「・・・ジョー?」 蒼い瞳に涙が滲んでいる。   ――やめた。 僕は――   「あのさ」 立ち止まり、スリーの手をいったん離す。 「・・・ジョー?」 不安そうな彼女の声にくすりと笑みを洩らし、ナインは再び手を繋いだ。 「えっ、ジョー、これっ・・・」 お互いの指と指をからめて、手のひらをぴったり合わせて。 そうっと様子を見ると、スリーは耳まで真っ赤になっていた。 「――ん?なに?」 つられてナインの頬も染まる。 不覚にも――ドキドキした。      
   
       
          
   
         スリーはまだ少し涙ぐんでいる。
         あ、ホッペにキスは知ってるんだっけ。
         おかげで、彼女の両頬にキスするはめになったのだけど。
         逃げないようにしっかり握り締めるのはナインの役目だった。
         スリーが驚いた顔をしてナインのほうに少し近付く。
         「どうもしないよ。どうかしたのはフランソワーズのほうだろう?」
         「えっ・・・」
         「――まだ泣いてる」
         「あっ、これはっ・・・目にゴミが入って、それでっ」
         「・・・ふうん?」
         「ウン――」
         それよりも、彼女が泣いたことのほうが大きい。
         「ん。恋人繋ぎ」
         「えっ、でもっ・・・」
         がっちり組み合った手は、そう簡単には離れない。
         俯き加減で、ちらりとナインを見つめるから、目が合った。
         「・・・ううん。・・・あの、これっ・・・」
         「うん?」
         「・・・何だか凄く――ドキドキするのね?」
         「――そうだね」