―6― 「超銀の事情」
「あのくらいのオシオキじゃ甘いって?」
超銀ジョーはテーブルに片肘をついて掌に頬を預けた。
口許に笑みが浮かんでいる。
「そうよ、甘いわ」
対するフランソワーズはきっぱりと言うと、アイスティーに口をつけた。
二人はいま、カフェにいた。
旧ゼロの二人がギルモア邸を辞したあと少ししてから、こちらもギルモア邸を後にした。
ジョーの車でそのまま街に出てカフェにいるというわけだった。
「じゃあ、フランソワーズはどのくらいのオシオキが適切だと思うんだい?」
ジョーは自分のコーヒーには見向きもせず、じっとフランソワーズを見つめる。
その視線がうるさいのか、フランソワーズは目を合わせない。
「それを聞いてどうするの」
「どうって、別に。ただの好奇心さ」
「どうだか」
フランソワーズはグラスを置くと、顔を上げた。まっすぐにジョーの視線を受け止める。
「耐えられそうなオシオキだったら、浮気がばれても大丈夫って確認したいだけじゃないの」
「酷いなあ。僕が浮気するという前提かい?」
「さあ、どうかしら」
「誤解しているようだけど、僕は今まで一度だって浮気したことはないよ」
「でしょうね。もし一度でもしていたら、私はいまここにはいないもの」
沈黙。
しばらくの後、ジョーが掌から頬をゆっくりと離し、いたく真剣な顔になった。睨まれているようで少し怖い。が、フランソワーズにとってはどうってことなかった。
「フランソワーズ」
「なあに」
「きみ、僕を信じてるね」
「当たり前でしょう」
「僕はきみが信ずるに値する男かな」
「勿論よ。私が選んだひとだもの」
「自信家だね」
「おかげさまで」
「でも、正しいよ」
信じてなければ、いまここにはいない。フランソワーズはそう言ったのだ。
つまりそれは、裏を返せばしっかり信じさせろとそういう意味である。
フランソワーズはテーブルの上の手を伸ばして、ジョーの指先に触れた。
「もう。そんなに怖かったの?……私があなたを信じてないわけないでしょう?」
「……うん」
「ね?これに懲りたら、浮気する気持ちにはならないでしょう」
「うん。……えっ?」
まさか今の一連の会話がフランソワーズのオシオキの一例?
ジョーは大きく息を吐くと胸を押さえた。
――まったく、心臓に悪い。
フランソワーズに信じてもらえなくなったら生きていけない。そして、その原因を作った自分を一生許せないだろう。
こんな模擬会話でも辛いのだ。
「フランソワーズ、僕は」
「私だけ見ててくれなくちゃいやよ」
小さく言われ、
「きみしか見えないよ」
歯の浮きそうなセリフを言ってのけたジョーだった。
「うふ、嬉しい」
そして、ジョーのセリフに照れもせずこれまた少女漫画の乙女のように返したフランソワーズ。
王子様とお姫様を地でやってのける二人は最強のカップルであった。
|