「これってプレゼント?」
―新ゼロクリスマス2013―
クリスマスプレゼントよと言ってフランソワーズがくれたのは、マフラーだった。 「だってジョーのセンスって……」 フランソワーズはごにょごにょと語尾を濁す。どうやら僕の私服について何か言いたいらしい。 「これなら、どのジャケットにも似合うわ」 フランソワーズは満面の笑みで胸を張った。 僕はじっと手に取ったマフラーを見た。 「フランソワーズも似合いそうだね」 なるほど。 「僕が使うならいいんだよね?」 何に使っても。 「ええ、もちろんよ」
―1―
光沢のある薄いプラチナグレイで織り模様のある細身で薄いものだ。
これ、マフラーというけれど防寒とは関係ないよな。
たぶん、おしゃれ用だろう。よくわからないけど。おしゃれなんて単語、僕とは最も縁遠いものだから。
僕のクローゼットの中身は全て把握しているらしい。
確かにどれにでも似合うだろう。案外フランソワーズも似合うかもしれない。
「ふふ。そうね。でもそれはジョーのだから、ジョーが使ってくれなくちゃ嫌よ」
その時、既に僕はそのマフラーの使い道を考えていた。
僕が使うなら好きに使っていいとフランソワーズが言ったから。
数時間後。 僕はフランソワーズに水の入ったコップを渡した。 「ふふ。ジョーったら、甘えん坊さんね?」 ……また子供扱いする。 「ジョー?どうかした?」 二杯目の水を注いで干したあと、フランソワーズがこちらを向いた。 「うん……」 僕は思いのままフランソワーズを抱き締めた。 「ジョー?」 痛いのはイヤよと言うのに、痛いのは僕もイヤだよと返しそっと体を離す。 「やっぱり似合うね」 そして僕はそれを使ってフランソワーズに目隠しをした。頭の後ろで軽く結ぶ。 「……ジョー?」 そうして僕はフランソワーズの頬にくちづけた。フランソワーズがはっと息を呑む。 「ジョー。見えないと心細いわ」 次に何をするのかわからないわと言うのを受け流し、僕はフランソワーズの耳を噛んだ。 「……ジョー、くすぐったい」 フランソワーズの鼓動が徐々に早くなってゆく。次に何をされるのか、僕が何をするつもりなのか、見えないから心の準備ができないのだろう。 背中のくぼみを確かめるように舌を這わせ、フランソワーズをシーツに埋めた。 「……これが好き?」 耳元で言うと恥ずかしそうに黙ったから、僕はフランソワーズの肩にわざと音をたててキスをした。 「んもう……ジョーったら」 フランソワーズを抱き締め僕が果てたあと、フランソワーズは僕を押し退け身体を起こした。 「……何」 なんだか嫌な予感がするけれど気のせいか。 「次はジョーの番よ」 凄く不穏な気配が漂う――が、今の僕にはそれを突き止める余力が無い。 フランソワーズの企みに気付かないふりをして僕は目を閉じた。どうしても瞼を開けられない。もうこのまま眠ってしまおう。 んんん? 「うふ」 「ジョー。動ける?」 右手を動かそうとし、それができないのに気がついた。 「え。何だこれ。いったい――」 僕の両手はベッドの支柱に括られていた。僕のマフラーで。 「フランソワーズ、これ」 いったいどういうつもり? するとフランソワーズは僕の上でニッコリ笑った。 「言ったでしょう。今度はジョーの番よ」 僕の動きを封じ、なんだか凄く楽しそうだ。 「そういえば、ジョーから何にも貰ってないのよねぇ……クリスマスプレゼント」 それともフランソワーズの言うところの僕から彼女へのプレゼントなのか。
―2―
ほんのり上気した肌のフランソワーズはありがとうと小さく言ってそれを飲み干した。
僕は急速にクールダウンしていく彼女が名残惜しくて、そっと抱き寄せた。さらさらの素肌が心地良い。
こうして親密な時間を過ごすのは子供じゃない証拠なのに、なぜか彼女はこういうときは僕を子供扱いするのだ。いったい何故なのか。
ずっと前にわけを訊いたことがある。が、フランソワーズは含み笑いをして内緒と楽しそうに言った。自分の胸に手をあてて考えてごらんなさいと。そうすればわかるわよ……と。
以来、その質問はしていないけれどだからといって僕に答えがわかったというわけではない。
未だに意味がわからない。
いったい僕の何が彼女をそう思わせるのか。なにか――凄く子供っぽいことをしている、というのだろうか。それともあるいは――いや、これは考えたくない。ダメだ。
濡れた唇が僕を誘う。
さきほどより体温が下がっている。それが悔しくて、更に力をこめて抱き締める。
「……フランソワーズ」
「なあに?」
「ちょっと試してみたいことがあるんだけど、いいかな」
「なにかしら」
そしてフランソワーズからプレゼントされたマフラーを取り出した。フランソワーズの肩にそっとかけてみる。
「そうかしら。でもこれはジョーにあげたのよ」
「そうだね。大切に使うよ」
「ええ」
「最初はフランソワーズにね」
「えっ?」
「黙って」
「大丈夫。ここには僕しかいないよ」
「そうだけど……」
そのまま唇をうなじに這わせる。
それが狙いだった。
別に僕達はマンネリではないけれど。
でも。
僕を子供扱いしたから、これはそのお仕置きだ。僕は子供じゃない。
両手で胸の稜線をなぞるとフランソワーズの唇から甘い声が洩れた。
「目隠しを外したらダメだからね」
「ん……いつまでしていればいいの?」
「僕がいいって言うまでだよ」
「それっていつ?」
「さあね」
「意地悪」
僕はフランソワーズの髪に背中にキスをして、背中からぎゅっと抱き締めた。
―3―
目隠しを取り、じっと僕を見ている。
「ジョー。私、イイコト思いついちゃった」
「……え」
全てのちからを使い果たしたといっても過言ではない。もう今夜はこのまま眠ってしまいたい。
それにしてもフランソワーズは元気だなぁ。僕がこんなに疲れているのに。これが男と女の差なのだろうか。
あるいは、だから僕は子供扱いされるのか――いや、やめておこう。そんなはずはないのだから。絶対。
それにしても彼女の言う次はジョーの番よっていったいなんのことだろう。
今度は僕が目隠しをする番という意味だろうか。ううむ。それは別に構わない。が、できれば次の機会にしてもらえないだろうか。
今日はもうおそらく僕は使いものにならな――い?
ん?
な、なんか楽しそうな気配が伝わってくるが、いったい……?
僕はなんとか瞼をこじ開けた。
目の前にフランソワーズの満足そうな顔。
「えっ」
次いで左手を動かそうとしたが、それもできなかった。
「え。あ、それは……っ」
「ううん。いいのよ。これから貰うことにするから」
「え?っていったい何を……わっ」
これはさっきのお返しなのか?
しかしどう見てもお仕置きにしか思えないんだけど?
フランソワーズの好きなようにされて、夜は更に濃密になっていった。
忘れられないクリスマスイブになりそうだった。