「三時のおやつ」
「Audrey」からの帰り道。 「着いたよ。・・・フランソワーズ」 優しく肩を揺すられ、目を開けた。 「ん・・・ごめんなさい、寝ちゃったわ」 いたずらっぽく微笑むジョーに軽く唇を尖らせると、額にキスされた。 「ほら。ちゃんと寝ないと疲れが取れないよ」 そこで初めて、フランソワーズはここがギルモア邸ではないことに気がついた。 「ジョー?」 軽く欠伸をしながら車から降りる。手にはしっかり「Audrey」のケーキの箱を持って。 「・・・眠い?」 何しろ、昨夜は殆ど眠っていない。更に、公演が近いためレッスンは厳しくなっており、いくらサイボーグとはいえ体力の限界に近かった。 「すぐ寝る?」 お部屋で食べなさいと持たされた数々のケーキ。 「・・・食べる」 くすくす笑い合いながら、ふたり手を繋いで部屋へ入る。 テーブルに箱を置いて覗き込むフランソワーズの背後から、ジョーが腰に手を回して肩に唇をつけた。 「もう、ジョーってば。ケーキを食べるんでしょう?」 ジョーに構わず、箱を開けるとその中には「キス」の二文字を冠した名前のケーキばかりが入っていた。 「・・・萌子さんたら」 小さく呟くフランソワーズに頬を寄せ、ジョーが聞き返す。 「萌子さんたら、なに?」 更にきつく抱きすくめられ、フランソワーズは大きく息をついた。 「もう、ジョー。息ができないわ。手加減するの忘れてない?」 くるりと自分の方を向かせると、フランソワーズの顎に指をかけ上向かせてじっと瞳を覗きこんだ。 「・・・これは?」 そのまま唇を重ねられ、更に後頭部にジョーの手が優しくかけられてキスが深くなってゆく。 「・・・待って、ジョ」
数十分後。
怒っているのか、ジョーの胸に体を預けて目をつむったままのフランソワーズ。 「フランソワーズ?・・・眠い?」 ジョーの言葉にフランソワーズはぱっちりと目を開けた。 「ケーキの名前は「キス」にちなんだものでしょ?それ以上なんて書いてないわ!ジョーのばか」 びっくりしたように瞬きする褐色の瞳。 もう、ばかなんだから。――でも、好き・・・
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2008/11/19 up , 2010/7/17 down, 2012/8/26re-up