「もう、こういうミッションは嫌だな」


お互いを確かめるようにキスを交わした後で、ジョーがフランソワーズの髪に顔を埋めてポツリと言った。


「絶対、いつか嫌われる」
「あら。嫌われるようなことをしてるの?」
「し・・・してないよっ」


急に慌てるジョーがおかしかった。


「だったらいいじゃない。私は平気」
「――ほら。平気、って言うだろう」
「だって平気だもの」
「僕が平気じゃなくなるんだよ」
「そんなの変よ。だって、やきもきするのは私のほうのはずでしょう?」
「だってやきもきしてくれないじゃないか」
「してます」
「嘘だ」
「・・・してるもの」


だから、こうして一人で泣くのよ。
全然、わかっていないひと。


「だって、私が嫌だって泣いてごねたら困るでしょう、あなた」
「困らないよ」
「だって作戦なのよ?」
「フランソワーズが泣いてごねたら作戦を変える」
「そんなの、無理よ」
「無理じゃない」
「だって・・・。だったら、今回のことだって、もし最初にそう言ってたら変更していたの?」
「当たり前だろ!」


思わずジョーの顔を見つめるフランソワーズ。
その視線をしっかり受け止め、微かに笑みを浮かべているジョー。


「・・・嘘でしょう」
「本当さ。あの時、きみが平気じゃないって言ったらそうしていた」
「・・・嘘ばっかり」
「だけど、君が平気だって我慢するから、僕も我慢した」


なんのことはない、お互いに我慢比べをしていただけだった。


「最後まで我慢するから、僕もそうするしかなかったけど、でも――こんなのは反則だよフランソワーズ」
「こんなの、って?」
「――ひとりで泣くことだよっ・・・」


ぎゅうっと抱き締める。
今度はフランソワーズも彼を抱き締め返す。

そうして、胸のなかで少し泣いた。

 

それでもきっと、これからも我慢してゆくのだろう。
今の位置でいる限り、お互いの役目は決まっているのだ。

 

だけど、今日は。

今日だけは。

 

ちょっとだけ、我慢するのをやめてみてもいいかもしれない。