「嫌われている」
フランソワーズに手を離された。
無言で。
すっ、と。
そして何事もなかったかのように歩き出した。
――嫌われた。
僕はフランソワーズに嫌われた。
いや、今急に嫌われたわけじゃない。
きっと、前からずっと嫌いだったんだ。だから、何もなかったかのように静かに手を離したのだ。
そうじゃなかったらもっと動揺するんじゃないか?「あっごめんなさい」とか言って慌てて手を振りほどくとか。
でもフランソワーズは本当に静かに手を離した。
すっ、と。
僕が気付かなくてもおかしくないくらい。
……嫌われた。
否。
嫌われている。
そう思ったら、急に体から力が抜けていくようだった。
昨夜から、フランソワーズと二人で行うミッションが楽しみで仕方なかった。
さっさと終わらせて、現地のレストランかカフェに行ってゆっくりしよう、よしデートだ、と。
なのに。
しょっぱなから拒否されたら、なんだかもうどうでも良くなってしまった。
いや、逆に早く終わらせてたくて仕方ない。だって僕は嫌われているのだ。
僕なんかとは一分一秒でも早くお別れしたいに違いない。
自然、早足になった。
「ちょっとジョー、待って」
肩越しに見ると、フランソワーズは小走りで息を切らせていた。
……可愛いなあ。
思わず手を差し延べようとして――やめた。また拒絶されたら、今度は立ち直れない。
だから僕はきっぱりと前を向くと、背後にいる003のことを思い出さないようにした。
僕は嫌われている。
手も繋ぎたくないほど。
それはきっと、僕が今までどんな汚いことをして生きてきたのかを知っているからだ。
綺麗な彼女の人生とまるっきり異なる存在。
僕は異物なのだ。
だから嫌われて当たり前なんだ――
ミッションを終えてドルフィン号の迎えを待っている時。
急に003が僕の頬を触った。
「え」
何?
「ここ。汚れてるわ」
そういえば、さっき機械の処理をしていた時何か撥ねたけど……
003はその指先で僕の頬を優しくこすった。
「気がつかなかったの?」
「う、うん」
ジョーったらダメねぇと笑う。
その笑顔が綺麗で可愛くて、僕は思わず目をそらした。
これ以上、好きにならないように。
「触るな」
君の綺麗な手が汚れてしまう。僕なんかに触ったら。
ドルフィンが来てギルモア邸に戻っても。
その日、003が僕に話しかけることはなかった。
やはり僕は嫌われているのだ。