「――フランソワーズ?」
何だろう、この違和感。
蒼い瞳を見つめているのに、全然・・・
――でも、駄目だ。今日は触れてはいけない。自分でそう決めた。
一緒に居られるだけでいいと彼女にわかって欲しい。
きみの瞳に見つめられて、きみの声を聞いて。
優しく話す声に耳を傾け、明るい笑顔を見つめて。
平和な同じ空間に居られることが一番幸せだということをちゃんと伝えたかった。
だから、今日は触れない。
・・・だけど。
そう決心してからまだ一時間も経っていないのに、既にそれは揺らいでいた。
手を伸ばせばすぐに腕の中に抱き締められるのに――どうしてそれをしてはいけないんだろう?
あの事故で、僕は誓った。
絶対に彼女を独りにはしないと。
いつまでも、その最期の瞬間まで、一緒に居ると決めた。
それは単なる物理的な距離の問題だけではなく、気持ちについても同じだった。
独りにしない。
僕の心はいつもきみのそばに在る――はずなのに。
蒼い瞳がじっと僕を見つめる。
いったい、どうしてそんな目で――
きみの心はいま独りになってしまったみたいに。
気がついたら私は、ジョーの腕の中にいた。
・・・いつの間に?
ぎゅっと抱き締めているその腕は、私を大好きな場所へ導く。
大好きな場所――ジョーの胸へ。
「フランソワーズっ」
ずいぶん会ってないかのように、ジョーの抱擁はきつくて息ができなかった。
「ジョー、待って」
腕の中で身じろぎするけれど、ジョーは腕を緩めてくれない。
「ん・・・息ができないわ」
すると、いきなり腕が緩んだ。
ほっと息をつくのも束の間、ジョーの顔が近くにあって、心臓が一回大きく打った。
「・・・ジョー」
おでことおでこがくっつく。
「ゴメン。でもやっぱり、こうしてた方が落ち着く」
照れたように言う。
褐色の瞳は、少し切なそうで――
「ゴメン。こういうことばっかり、考えているわけじゃないんだけど」
「・・・いいの」
「えっ?」
「私も・・・こうしてる方が落ち着くわ」
結局、ごはんを作るのはずいぶん後になってしまったわけだけど――
「・・・そういえば、さっき言いかけてたことをまだ聞いてないんだけど」
フランソワーズを抱いたまま、そっと声をかける。
「・・・なんでもないわ、って言ったのに」
「でも気になるよ」
「だって、・・・聞いたら笑うわ。きっと」
「笑わないよ」
「嘘。絶対笑うわ」
「笑わないって。約束する」
「・・・ほんとに?」
「うん」
「・・・あのね」
「うん」
「・・・やっぱり、いい。言わない」
「フランソワーズ」
「だって、・・・もう、いいの」
「・・・そう?」
「ええ。・・・大したことじゃないから」
「――そう」
「ええ、そう」
「ふーん?新婚さんみたいだね、っていうのは大したことじゃないんだ?」
そのあと、暴れるフランソワーズをなだめるのは大変だった。
でもまぁ――そんな彼女も可愛いんだけどね。
一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に怒って。
結局、僕たちはお互いの望み通りの休暇を送ったことになった。