「イケメンの条件」
イケメンの条件。
「さわやか」「誠実」あとひとつは?
「それをなぜ僕に訊くんだい?」 そうだろうか? ジョーはにこにこしているフランソワーズをじっと見つめた。 が、しかし。 フランソワーズがそうだというのなら、もしかしたらそうなのかもしれない。 だからジョーは考えた。 「さわやか」「誠実」あとひとつは…? そうだ。自分のなかから答えを捻りだそうとするから無理があるんだ。 イケメンの条件に正解も何もあったものではないはずなのだが、進退窮まった状態のジョーにそれに気付く余裕はない。 「イケメンなんだろう?笑顔は基本じゃないのかな」 そんなことは知らないけれども、ジョーはもっともらしく言ってみた。 「…そうかしら」 なぜ。 「ほら」 と、いわれても。 「い、いいよ、僕は。そもそもイケメンなんかじゃないし」 いや、確かにフランソワーズがそう言うのならそうなのだろうし、それでいいとは思う。 「気付いてないでしょう。あなたがちょっと笑っただけでどのくらいの女子があなたのファンになってしまうのか」 なんだか雲行きが怪しくなってきた――ような気がする。が、気のせいか? 「ううん。ファンだけじゃないわ。どこぞの王女さまだってそうだったし」 頼むよ。 「――わかった。笑ってみるよ。それでいい?」 ジョーはフランソワーズに顔を近づけると、その髪にちゅっとキスをした。 「なっ、なによ急に」 にこにこしているジョーにフランソワーズは真っ赤になった。 「しょうがないだろ。だって僕は」 フランソワーズのそういう可愛い反応を見ないと笑顔になんてなれやしないんだから。
「だってジョーはイケメンだもの」
「…イケメン…」
自分ではイケメン――つまり、いけてるメンズと思ったことは一度もない。
むしろ、どちらかというといけてないほうのメンズだと思っているから、自分がそれに該当するなぞ青天の霹靂である。
いや、きっとそうなのだろう。
どんなにいけてないと思っていてもフランソワーズが「ジョーっていけてるわ」と思うならばきっと自分はいけてるほうの男子なのだろう。
ジョーにとってフランソワーズは絶対的存在なのだから。
イケメンの条件とやらを。
……なんだろう?
なんだろうか?
フランソワーズから見れば「イケメン」であっても、ジョー自身は露ほどもそう思っちゃいないから、考えても己のなかから答えが湧き上がってくるはずもなかった。
「ね。あとひとつはなんだと思う?」
期待に満ちたマナザシで促されるもジョーは答えに窮した。
なにしろさっぱりわからない。
さて困った――と思ったところに天啓のように閃いたものがあった。
僕はイケメンじゃないから、僕が思うのと反対の答えをすればそれがおのずと正解になるんじゃないか。
こほんと咳払いをするとにこやかに答えた。
「笑顔、かな」
自分では笑顔が素敵なんてちっとも思わないし、実際、うまく笑えてるのかどうかもわからない。
そのくらい平和で素敵な笑顔と無縁なのだから、そんな自分と対極にあるイケメンはきっと似合うに違いない。
ジョーは自信満々で答えた。
「笑顔…?」
しかしフランソワーズはなにやら訝しげな表情を浮かべ、ちょっと首を傾げた。
「そうさ」
「じゃあ、ジョー。ちょっと笑ってみて」
「え」
おかしくもなんともないのに笑えるはずがない。
「そんなことないわ。ジョーはイケメンよ」
しかし、急に笑えと言われてもそう簡単に笑顔なぞできやしない。それができないからこそ自分はイケメンではないのだ。
「…え?」
「ちょ、ちょっとフランソワーズ。いまそんな話をしてるんじゃないだろう」
「そうね。ほんの一瞬、思い出しただけよ」
「…フランソワーズ」
昔の話だし、その件はもう片がついたはずだろう?
「そんなヤケクソに言われても嬉しくないわ」
「いいよ。笑うよ。でもその前に」
「その前に?」