「みかん」

 

 

ジョーの部屋には冬になるとコタツが登場する。
日本人であるジョーにとって、コタツがない冬など考えられないのである。
あの、ぬくぬくした感じとそこはかとなく漂う倦怠感・・・いや、平穏な空気。
それが好きだった。
もっとも、フランソワーズに言わせれば、ただごろごろしたいだけでしょうというところだったが。
そんなフランソワーズも、今ではジョーと一緒にコタツ生活を送っているのだから、人生とはわからない。


今日もふたりは仲良くコタツに入り、コタツには欠かせないみかんを手にとっていた。
丁寧に皮を剥いてゆくジョー。
フランソワーズはその指先を見つめ、感慨深そうに呟いた。

「上手になったわよねえ・・・」
「え、何が?」
「みかんの皮を剥くの。昔は加減がわからなくて何個も潰しちゃっていたでしょう」


サイボーグになってから、ジョーはなかなか力の加減が出来ずにいた。
自分ではほんの少し力をいれただけのつもりが、予想外に大きな力になってしまう。
破壊された家具や小物は両手の指では足りなかった。
そんな状態だったから、慣れるまで相当苦労したのだ。


「ほんと、上手になったわよね・・・」


フランソワーズはジョーの指先をじっと見つめた。
今では細心の注意を払い、ものを壊すことなどない。


「本当に・・・」


とっても上手に。

 

とっても。

 

・・・上手・・・

 

フランソワーズの頬が染まった。


「うん?どうかした、フランソワーズ」

ジョーがみかんを手にきょとんとしている。

「コタツ、熱い?温度下げようか」
「ううん、大丈夫よ」
「でも真っ赤だよ。いいよ、いったん切っておくから。のぼせたんだろう?水か何か持ってくるから、待ってて」

ジョーは身軽に腰を上げ、行ってしまった。


ひとり残されたフランソワーズ。

剥かれたまま手付かずだったジョーのみかんを口に入れた。

「もうっ・・・私ったら」


みかんの酸っぱさが胸に広がった。