「どう見える?」

「私たち、どんな風に見えるかしら」

 そう訊いたのは何年前のことだったか。

 
ジョーと一緒にいても、不安だったあの頃。
隣にいてくれても、それでもどこか心配で確認せざるを得なかった。

 ジョーは少し困ったように笑っただけだった。

 
いま思えば、私は何にもわかっていなかった。
恋人同士に見えるかどうかなんてどうでもいいのだ。
他人にどう見えるかなんて関係ない。
私たち自身がどうしたいのか、そのほうが大事なのだ。

 一緒にいたいからいる。

 それこそが全てであり、だから他人にどう思われていようが関係ないのだ。

 私はジョーが好きだから、いまこうして一緒にいる。

 



 「ねえ、フランソワーズ」
「なあに?」
「僕たちってどう見えるかなあ」
「どう、って・・・何が?」

 
恋人に見えるかどうか。
今度はあなたが確認するの?

 「・・・ジョーったら。いったい何が心配なの?」

 私の気持ち?

 「え、あ、うん。その・・・」

 ジョーは微かに頬を染めて、視線をセーヌ川に漂わせた。

 「・・・さっきから聞こえてくるから」

 
そこで私ははじめて意識を外に向けてみた。
すると、どうやら日本人観光客が近くにいるようで何やら話しているのが聞こえてきた。

 
『ねえねえ、あそこにいるのって恋人同士かしら』
『さすが違うわよねえ』
『あらヤだ、違うわよ。きっと新婚さんよ』
『そうかしら』
『絶対そうよ』


新婚さん?

私たちが?


私はもう一度ジョーを見て、そうして彼の視線がセーヌ川に向いたままなのだけ確認した。

「・・・ふふっ」

そうっとジョーにもたれる。

以前よりも近い彼との距離が他人にそう思わせるのだろうか。
それとも私たちの雰囲気がそう見えるのだろうか。

 「あのひとたちが言うような・・・って、こと?」
「うん、まあ」

「そうね。・・・見えるでしょうね。きっと」
「・・・そうだね」

 
他人にどう見えるかなんて関係ない。

でも、少しだけ嬉しくなったから小さく言ってみた。


「大好きよ。ジョー」

 

 

 

 

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