「白馬の王子さま」
「ジョーは、騎士と王子とどっちがいい?」 キスのあとの余韻もまだひかない距離で、いきなりの二者択一だった。 「・・・騎士」 とっさの不可思議な二者択一にもひるまないのはさすが009というべきか。――否。慣れているのだった。彼女の突然の出題には。 「ええーっ。騎士なの?王子じゃなくて?」 不満そうに頬を膨らませるフランソワーズ。 「それとも俺が王子じゃないと何か困るわけ?」 彼は王子と言われたことはかつて一度もなかった。「王に」どうかと提案されたのは数回あったけれど。 「・・・だって、白馬に乗ったことあったじゃない」(注:第39話「大根役者に乾杯!」) ジョーは喉の奥でけっと変な声を出した。 「だから。俺は王子って柄じゃない」 大体、どうしてそんなに白馬の王子にこだわるんだ・・・と、ジョーは訝しげな視線を向けた。 「・・・じゃあ、私の白馬の王子さまは誰なのかしら」 自分が白馬の王子じゃないと何か都合が悪いのだろうか? 「――あのね。女の子って、誰でも白馬の王子さまを待っているものなのよ」 妙な生物だな――と、思う。自分を含め、男は別にお姫様を迎えに行かなくてはいけないなんて思ってはいないだろう。 「それが恋人だったり、その・・・運命の相手というか」 それに関しては、ずっと前からふたりには思うところがあった。 「――俺は運命の相手じゃないってことだろう」 この言葉を口にする時は、どうしていつも胸の奥が痛むのだろう? 「・・・そうね」 自分で言ったくせに、同意するフランソワーズの声を聞くと胸の痛みは更に増すのだった。 「じゃあ・・・騎士でいいわ。私は」 フランソワーズはジョーの首筋に頬を寄せた。 「前にも言ったけど、王子なんて要らない。私は騎士がいい」 確かに。 「誰よりも速く私のところへ来てくれる音速の騎士がいい」 ジョーはフランソワーズを抱き締め、髪に優しくキスをする。 「女の子の元へ来るのが、白馬の王子さまじゃなくてもいいのよね?」 だったら、やっぱり白馬の王子さまじゃない―― お互いに顔を見合わせて、くすくす笑い合って。
「んっ??」
「・・・前から言ってるだろ。俺は王子って柄じゃない、って」
「んー・・・・」
「あの白馬はグレートだよ?」
「でも白馬に乗ったじゃない。白馬の王子さまみたいだったわ」
「どうしても?」
「ああ」
どうせきっとまた雑誌に何か書いてあったのに違いない。
「ん?」
「だって、ジョーじゃないんでしょう?」
「・・・?」
腕の中のフランソワーズは、何か考え込んでいるようだった。
「へえ・・・そうなんだ」
「ふうん」
「・・・ジョーがそうじゃなかったら、どうなるのかしら」
以前、眠り姫の話をした時にそんな話を交わした覚えがある。
「――ん。そう?」
「そうだね。――でも、その騎士だってたまたま白馬に乗ってるかもしれないけど?」
王子でもなくお姫様でもないふたりはそっとキスを交わした。