「雨の夜は」

 

 

雨が降っている。

 

夜の雨。

 

雨の日は好きじゃない。

雨は嫌いだ。


特に理由はないよと僕はみんなに言うけれど、自分ではなんとなくわかっている。

――僕は雨の日に置き去りにされた。

よくわからないけど、きっとそう。
だから僕は昔から雨が嫌いで、雨の日は・・・

 


小さく戸を叩く音がして、僕のあまり楽しくない思考は中断させられた。
眺めていた窓から離れドアを開けに行く。

ドア口に立っていたのはフランソワーズだった。


「・・・どうかした?」


真夜中だ。


「あの。・・・雨の音がするから、」

眠れないのと小さく言った。枕を抱き締めるようにして。
いつも自分の枕を持参してくるのが妙に律儀というか、不便だろうと思う。
僕の部屋に置いておけばいいのに、それはそれで恥ずかしいから嫌だと言う。
まったく、女の子ってやつは・・・


「だから、・・・一緒にいてくれる?」


顔をあげて微かに笑みを浮かべフランソワーズは言う。
お願いされているようで、その実僕に拒否権はない。


「・・・いいよ」


だから僕はおとなしくフランソワーズに抱き締められるに任せる。
背中を撫でる彼女のてのひらが暖かい。
髪を撫でる指先が優しい。

 

雨の日はひとりではいられない。


でも、だから一緒にいてくれとも言い出せない。

いつも独りで耐えるしかなかった。

 

でも、いつからかフランソワーズは雨の日に必ずやって来るようになった。
雨の日は僕を独りにさせてくれない。


だから僕は、最近では少しだけ雨の日が待ち遠しい。

必ず隣にフランソワーズがいるから。