え? 私が何を怒っていたのか、って? 本当よ? ――なあに?ジェロニモ。 え。 で、何を怒っていたのか、って? ――いいわ。言うわよ。 あのね――あ。ジョーが呼んでる。
「フランソワーズっ、どこーっ?」
ね?
「ジョー!いま行くわ!!」
***
「結局、わからねーままかよっ」 ジェットがソファに寝転がって文句を言っているのが見える。ジョーの部屋からリビングを透視してみた。 ジョーは私を離さない。 「ねえ、ジョー?」 ジョーは愛おしそうに私の髪や額に唇を寄せる。 「みんなが理由を知りたがってるの。どうする?」 言葉を切って黙り込む。 「わかったわ。内緒ね?」 ジョーの唇が頬を掠める。くすぐったいわ、ジョー。
――ケンカの理由なんて、いつだってささいなこと。大した事じゃないわ。 「――ねえ、ジョー?」 私の首筋に顔を埋めているジョー。 「――今度、レースより私の方が大事なんて言ったら許さないわよ?」 そう。 「・・・口が滑っただけなのに」 きっと、カワイイ恋人は「車よりきみが大事だ」って言われたら喜ぶのだろう。 だけど。 そんなの、私は許さない。 そんなジョーは好きじゃない。 大好きだけど、大嫌い。 いざとなったら、戦場に私を残しても撤退することができなくてはダメ。 私のことは二番目でいいの。 「でも納得いかないよ」 それでも不満そうなジョーの唇に私は自分の唇を近づける。 ――いなくならないで。 たとえそれが、私を守るためであったとしても、私の目の前でいなくなることは絶対に許さない。 こんなの、ただのわがままだけど。
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