「雨の音も風の音も」

 

 

ギルモア邸は堅牢な造りだから、風雨には強い。

雨の音も風の音も室内には伝わってこない。
聞こえない。

だから、出掛ける時はちょっと不便なんだよとみんなが言う。
玄関ドアを開けて、初めて雨模様に気付いて雨具をとりに引き返さなくてはならないから。


「嘘でしょう?みんな、大袈裟だわ」

フランソワーズは、信じられないと首を振った。

「雨の音も風の音も聞こえるわ。うるさいくらいよ」
「それは」

フランソワーズだけだよ。皆、そう思ってはいるけれど声には出さない。
ただ曖昧に微笑むだけだった。


「ねえ、ジョー。どう思う?聞こえるわよね?」

「えっ」

実は聞こえない。
いや、言われれば微かにそんな音も拾えるのだがフランソワーズほどではない。


しかし。


「うん。聞こえるよ。気になって眠れなくて困る」
「そうよね?」
「うん。フランソワーズが怖いっていうから、僕は大変だけどね」


ずうっと抱き締めて眠ることになるからね。


そう耳元で言ったジョーに顔を赤らめ、フランソワーズは身を離した。


「もうっ・・・イヤなジョー」

 

ジョーにとっては、雨の音も風の音も、公然とフランソワーズのお守りができるBGMでしかなかった。
雨の日は、どちらがお守りをされているのか境界が曖昧だったけれど。