「口実、って、何の?」
えっ?
フランソワーズは顔を上げた。
顔を上げて、まあ。何を言うのよジョーの意地悪。と続けようとしたができなかった。
何しろ彼は、至極真面目な顔をしていたのだから。
「・・・何って、その」
フランソワーズは枕を抱き締め、もじもじと下を向いた。
ジョーの部屋へ来る口実。
そんな自明の理を説明しなければならないのだろうか。
ジョーのバカ。
ジョーの朴念仁。
ココロのなかで思いつく限りの言葉をぶつけてみる。
が、そんなココロのなかの声が彼に届くはずもなかった。
「――あのさ」
困ったように響くジョーの声。
迷惑だったのだろうか。
そう――きっとそうに違いない。
フランソワーズは体を硬くして、彼の言葉を待った。
少しの間のあと、聞こえてきたのは更に困ったような声。
「その・・・まさか僕の部屋に来るための口実・・・じゃ、ないよね?」
そうではないという答えを期待している問い。
からかっているのでもない。真剣に困惑しているかのような声だった。
「え。・・・」
ええそうよ、もちろん。
ジョーの部屋に来ちゃいけない?
彼の困った姿を無視して、強がってそう言ってしまうのは簡単だったけれど。
「――どうして?」
それでは駄目なの?
反対に問うてみる。
見上げたジョーの目は優しくフランソワーズを見つめ、そしてふと逸らされた。
「いや・・・だってさ。要らないだろう?その、僕の部屋に来るのに口実なんか」
「えっ、どうして」
「どうして、ってそれは」
――ずるいよ、フランソワーズ。
そう聞こえたような気がした。
あるいは気のせいだったのかもしれない。
そう言って欲しいという思いが勝手に作った幻聴なのかもしれない。
風が強くてわからなかった。
だから。
「風が強くて眠れないの」
もう一度言ってみた。今度はジョーの腕のなかで。
「うん。――そうだね」
ジョーの腕が抱き締める。
そのまま彼の胸に体を埋めてしまえば、風の強さなどわからなくなる。
だから。
「――風が強い日って好き」
「うん。僕も」
そうして少し笑った。