第17話「阻止せよ!Xの悲劇」
仲間以上恋人未満

 

嘘つきね。
横顔を見つめながら心の中で思う。
私の踊っているところも観た事ないくせに。
けれど思いとは別に頬が緩んでくる。

 

大久保邸に向かうストレンジャーの中。
外には謎の爬虫類に化けた007が張り付いていた。
(うまくやりやがったなジョーの奴)
ちょっとにんまりして。
(けど、吾輩のレクチャーが役にたったな)
若い二人が何に遠慮しているのか、見ていていつももどかしかった007。
つい先日、ジョーを掴まえて懇々とレクチャーしたのだった。

 

「女の子にはな、ちゃーんと言ってやらなきゃ伝わらないんだぞ」
「わかってるよ、007」
涼やかな瞳でにっこりする。
「いんや。お前さんはわかってねぇ」
ずい、とジョーの前に迫る。
「他のお嬢さんにはどうなのか知らねぇが・・・少なくともフランソワーズには言ってないだろーが」
「・・・・・」
「ちゃんと気持ちを言ってやらねぇと可哀想で見てらんないのよ」
ヨヨヨと泣く真似をする。
「それとも何か?彼女の事はなーんとも思ってないのか?」
「・・・・・」
「ん?聞こえないぞ」
「003は。・・・仲間だから・・・」
「おいおいおい。仲間?けっ!」
大袈裟な身振りで両手を開く。
「仲間だから何だって?まさかお前さん、フランソワーズの気持ちに気付いてないってことはないよな?」
思わず胸倉を掴み上げようとした時。
「そこまでにしとけよ、おっさん」
「誰がおっさんじゃー!」
戸口にはアルベルトが居た。
「放っておけばいいさ。なるようにしかならないんだから」
「けどさ・・・」
「おっさんが彼女の事を娘のように可愛がっているのはわかるけれど、こればっかりは外野がどうこう言ったところで始まらない」
「そんなことはわかっちゃいるけど、コイツを見てるとこう・・・」
「じれったいんだろう?」
「そう!それなんだよ」
二人の視線がジョーに集まる。
「いいか。お前さんがどう思っていようが、彼女を泣かせるような事があったら俺はただじゃおかねぇ!」
「・・・大丈夫だよ、007」
ふっと瞳に影が射す。
「僕達は別にそんなんじゃないから」
「!お前っ・・・!」
「やめろって」
アルベルトがグレートを抑える。
「ジョー。お前の気持ちはわかるがな。もっと優しくしろって言ってるんだよ、このおっさんは」
「・・・・」
「な?そうだろ、おっさん」
羽交い絞めにしていた腕を解く。
「う・・・まぁな。けど、もしジョー、お前さんにその気がないんだったら」
いつになく真剣な目でジョーを見つめる。
「さっさとそう言ってやってくれ。中途半端な情けは最低だ」

 

隣の席をちら、と見つめてほっと息をつく。
やっとの思いで口にした言葉。
車の運転中で、正面を見つめざるを得ない状況だったから何とか言えた。
もしこれが、面と向かってだったらきっと言えなかっただろう。

他の女の子になら。
面と向かってどころか、肩を抱いて言えてしまえるくらいに簡単な事だったりする。
しかも、もっとストレートに。
・・・君の次にね。
などという回りくどい言い方ではなく。

周りのオトナ達がじれったそうに自分達を見ているのは知っている。
でも。
僕達は遊んでいるんじゃない。闘っているんだ。
だから。
彼女もその「仲間」の一人だから。
軽々しく言ってはいけないんだ。
それに・・・
そっと隣を見つめる。
彼女は、そんなんじゃない。
他の女の子とは違う。
そんなんじゃないんだ。


 

「さっきは良く言えたな」
「えっ」
車にもたれてタバコを喫っていた時、隣の007がポツリと言った。
「やればできるじゃねーか」
「・・・聞いてたのか」
「まぁな。でも、フランソワーズも嬉しそうだったな」
ばし!とジョーの背中を叩く。
「安心したよ」

007は勘違いしている。
僕は別に・・・彼女の気持ちがどうとか、そんな事は考えていなかった。
ただ、不意に彼女の笑顔が見たくなって。
それだけの事だったんだ。

彼女の笑顔を見ると、どんな時でもほっとするから。
安心するんだ。本当に。
それはきっと、仲間の誰もがそうだろうから。
僕が、独り占めしたい。なんてそんな事は思っちゃいけないんだ。
仲間なんだから。

 

 

 

シャワーを浴びてもベトベトするの。
困った顔で訴えた003。
「・・・と、言われても」
困惑する男一同。
先刻の戦いで、巨大ミツバチの蜜を大量に浴びた003。
大方は006の炎で溶かされたのだけれども。
「博士が調合してくれた溶剤があるんだろう?」
009が聞く。
「そうなんだけど・・・。髪の毛にくっついたのが取れにくいの」
自分の髪を引っ張る。
「かといって美容院にも行けないし」
「どのへん?」
「自分じゃ見えないから、よくわからないの」
ごく自然に009が立ち上がる。
003の頭をためつすがめつ見て。
「んー。これは溶剤で根気よく拭き取るしかないなァ・・・。溶剤はどこ?」
「部屋にあるけど・・・」
「一緒に行くよ」
二人が去ったあと、あちこちからため息が洩れる。
「ったく。やってらんねーぜ」
「なんだよあれは。俺達は全然眼中にないじゃねーか」
「あれで、僕達は別に・・・ってか?」
002が009の口調を真似る。
「けっ」
「誰も邪魔しに行くんでないぞ!吾輩が見張りをするからな!」
なぜか嬉しそうに007が宣言する。
・・・それはそれで、結構、邪魔なんじゃないか?
と思った一同なのだった。