第24話「世界平和会議を守れ!」
過去
心配しないで・・・と、彼女は笑った。
ジョーはただ、部屋から出ようとしない私を心配して説得に来ただけだから。
近づこうともしなかったわ。
もっとも、私とジョーは例えれば・・・姉と弟。という間柄なのだから。
田辺博士の娘、ユリ。
ジョーとは古い知り合いだという。
改造される前のジョーを知っている人。
ジョーが夜中に彼女の部屋へ行ったと聞いて動揺したけれど、結局、見当違いなヤキモチだった。
ジョーをお願いね。
そう言った彼女は、本当に彼のお姉さんのようで。
ジョーはこの人と会えてよかったと心から思った。
ジョーの過去。
ブラックゴーストから逃げる時に、イワンが勝手にみんなに話した。
そんなプライベートな事は、本人が自分から話すのを待つべきなのに。
でも、そんな悠長な時間もなかったけれど。
ともかく、その時に聞いて知っている。
あまり褒められた経歴ではないという事を。
でも。
いつも「何かしらの事件」に巻き込まれて、要領良く立ち回れずに居ただけのようで。
優しすぎる上に、不器用なひと。
ジョーはいつも危なっかしかったけれど、今はもう大丈夫みたいね。
彼女はそうも言っていた。
本当に、びっくりしたのよ。
あのジョーが、あんなに明るく笑うなんて。
あなたがそばにいるからなのね。きっと。
ジョーをお願い。
くれぐれも、お願いね。
・・・お願いされても。
苦笑する。
この、優しすぎて自ら事件を引き寄せてしまう不器用でやっかいな人をどうしたらいいのかしら。
面倒みるのって、かなり大変よ。
既に仲間は面倒みるのを放棄してしまっていて、なんとなくなし崩し的に私の役目になってしまったけれど。
一見、単純そうだけど、見かけほどではなくて。
鋭いようで、ある面ではもの凄く鈍いし。
そっと、髪をなでてみる。
・・・起きないかしら。
私の胸に顔を埋めたまま眠ってしまった。
そろそろ重くなってきたけれど、一向に起きる気配もなければ、びくとも動かない。
「最強」って、なるほどね。確かにゼロゼロナンバー中、最強には違いない。・・・重いし。
でも。
こんな無防備に眠っていて大丈夫なのかしら。
何か起きても知らないわよ。
軽くイビキをかきはじめた鼻をつまむ。
1分・・・2分・・・3分・・・・・・5分。
ぜんぜん苦しまず、変化のない009。
・・・つまんないの。
起きないし。
重いし。
と思ったら、急にがば、と身体を起こした。
「し、死ぬかと思った・・・!」
ぜえぜえはあはあ息をしている。
大袈裟ね。ほんとは全然、苦しくなんかないはずなのに。
「ふ、フランソワーズ、・・・僕を殺す気?」
殺す?・・・まさか。
「時々しか思わないわよ。そんなこと」
「・・・っ。ときどき、って・・・」
そのまま枕に突っ伏する。
「例えば、真夜中に女性の部屋に行ったりした時とか」
一瞬、空気が凍る。
身じろぎもしない009。
「・・・あれは、そんなんじゃ」
「そんなん、って何?」
にっこり。
もしかして、最強のサイボーグって003の事じゃないのか?
という009の呟きは、彼女の耳に届いていたのかどうか。