「ホント?」
「本当だってば。・・・もうっ!」
面倒になったのか、ぐいっとフランソワーズを抱き寄せて唇を寄せました。
「・・・・・これだけ?」
フランソワーズはきょとん。としたまま。
「そうだよっ」
ジョーは怒ったままなのです。
「だってこれ・・・ちゅーじゃないわよ?」
だって、唇がちょこっと触れただけ。
こんなの、挨拶にもならないのです。
「・・・変なの。ジョーって」
きょとんとしたまま、くすくす笑う。
「こんなの、ちゅーにカウントしないのに」
「・・・うるさいな。正直なんだよ俺は」
「あ。『俺』って言った」
そうなのです。ジョーは時々、怒ると「俺」と言ったり、不良な言葉を使うことがあるのです。
そういう場合は必ず言葉遣いを直しているフランソワーズ。
問答無用とフランソワーズの唇をふさごうと顔を近づけると。
「えー。こほん」
咳払いをした主は。
「グレート。・・・と、イワン」
「あー。王子様がミルクを所望なので通りますよ」
「ミルク!グレート、私が」
「おぉ姫よ。今は姫のお手をわずらわせたくないのでございます」
そのままキッチンに消えてゆきます。
(もちろん、このふたりは最初の咳払いを聞いた時点で、それはもう「あ・うん」の呼吸で離れています。何事もなかったかのように。そのへんは年季が入っているのです。「今さら」ということにも気付いておりませんのです)
リビングからはピュンマとアルベルトが出てきました。
擦れ違う時、ピュンマがジョーに「そろそろ部屋に行け」と耳打ち。
「えっ?」
なんで?と、きょとんとするジョー。
その肩をつついて「ここにいられると通行の邪魔だ」とアルベルトが補足。
「あ・・・ごめん」
「ジョー・・・?」
つないだ手にぎゅっと力を込めて注意を喚起するフランソワーズ。
(そうです。手はつないだままなんです)
「・・・うん。通行の邪魔だってさ。部屋に行こう、フランソワーズ」
部屋。
蒼い瞳が訝しそうにジョーを見つめます。
だって、まだ昼なのに。
いま二人きりになったら・・・・なったら・・・・・。
頭の中がぐるぐるします。
だって、ジョーの手がこんなに熱い・・・。
困って立ち尽くすフランソワーズを見つめて。
くすっと笑うと手を引っ張るジョー。
「だめ?・・・ちゃんとしたちゅーをするからさ」
「・・・・・・!」
ちゃんとしたちゅー、って。
それって、それって・・・。
「・・・ジョーのばか」
真っ赤になってうつむくと、ジョーに手を引かれたまま一歩踏み出して。
そして、少し小走りになると、ジョーの腕に抱きついたのでした。
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