第29話「走れオスカー!平和を胸に!」
君がいるから

 

 

「・・・世界の人々が共に笑い、楽しみ合えば、戦争の無い世の中になるのにね・・・」

呟いた君。
僕は何も言えず、ただ君を見つめていた。
哀しくも強い瞳の君。
ただただ綺麗で。
君はどうしてこんなにも・・・。

 

せっかくのカーニバルでも、僕はなかなか君を誘うきっかけが掴めぬまま、結局、一度も一緒に踊れなかった。
君の笑顔は、他のメンバーに向けられていた。
僕ではなく。
別に踊りたかった訳じゃない。
ただ
君の視線の先に居たかった。
笑顔を向けて欲しかった。・・・僕だけに。

 

考えてみれば当然なのだろうか。
君がそばに居てくれることが自然すぎて、それに甘えてしまっていた僕への、これは罰なのだろうか。

君と話せない。
君の瞳を見つめられない。
君の声を聞けない。
・・・もっと近くで。

こんな距離では。
僕の想いは到底、君には届かない。

 

「ジョー?」


気付いたら君は隣に居た。
どうしたの、と小さく首を傾げて僕の顔を覗きこんでいる。
君はあまりにも自然に僕の隣に立っていた。

・・・僕は馬鹿だ。
君が居なければ駄目なんだと、何度思い出せばわかるのだろう。

君が少し離れただけで、怖くて手も伸ばせなくなってしまうのに。
もう君には永遠に手が届かないのかもしれない。
それを確認する事が怖くて。手を伸ばす事すら出来なくなるのに。

 

君の手がそっと僕の手を握り締める。
大丈夫?と心配そうな瞳をして見つめている。
「・・・ああ。大丈夫」
そう言って目を伏せた。
全てを前髪の奥に隠して。
滲む世界を君に気付かれたくなかったから。

そっと君の手を握り返した。

世界平和を願う君の隣で、僕はこんなに小さいけれど。
だけど
君が幸せでいられるように。
安全で平和な世界に居られるように。

僕はそれだけを願っていた。

 

フランソワーズ。
前に僕は「守るために闘っている」と君に言ったよね。覚えているかな。
あれは、事実だけど、本当はもっと自分勝手な理由なんだ。
だって僕は・・・

君を守るために闘っているのだから。

君が悲しい思いをしないように。
君が辛い思いをしないように。
いつも安全な世界で何も憂えることなく過ごせるように。

だから僕は。

もし、君がいなくなったら闘えない。
闘わない。

君がいない世界なんてどうでもいい。
どうなったって、いい。

・・・そんなこと、絶対に君に言ったりはしないけれど。

だけど

君が僕を必要としてくれていれば、僕はいつでも君を守るために闘いに行くよ。
だから、・・・手を離さないで欲しい。
どんな事があっても。
そうじゃないと・・・僕がダメなんだ。不安で不安で泣きたくなる。

フランソワーズ。
こんな自分勝手な僕だけど、君がいるから僕はここに存在している。
全ては君のために。

最後のその時まで、君を守るために。