ギルモアノート
〜「知らない」という罪〜

 

10月17日 

 

今日は009を誰にするのか決める日だった。
かねてより集められた若者たちの最終テストが昨日終了したのだ。

それにしてもブラックゴーストはいったいどこからこんなに志願者を集めたのだろう。
しかも国も年齢もバラバラだから、データもばらつきがあって何度テストをしても足りない。
が、それはそれで面白いデータになったから返って良かったのかもしれない。
今後何かの役に立つだろう。

ともかく、我々は009をどの青年にするのか決めねばならなかった。

009に加速装置をつけることは既に決まっていた。
だが、これが例えば運動神経の鈍い人間につけたらどうなるか。
我々が期待するような効果は得られないだろうし、おそらくつけても意味がなくなるだろう。
だから慎重にならざるを得なかったのだ。

神経反射の速い者でなくてはならない。
運動能力の高い者でなくてはならない。

更に言うなら、スピード感覚に優れているものがいい。

連日の筋反射テストで高い数値を持続的に出していたのは日本人の少年だった。
名前は――なんといっただろうか。
どうやらハーフらしいのだが、そんなことはどうでもいい。
彼は稀にみる反射神経の持ち主だと考えられた。信じられないくらい反応がいい。

そんなわけで、全員一致で彼が009にいいだろうということになった。

だが、まだまだ先は長い。
彼に加速装置をつけると決まったからには、皮膚の強化に入らなければならないし骨や内臓もマッハに耐えるものでなくてはならない。空気抵抗を極力減らし、かといって軽すぎてもいけない。
摩擦熱で燃えない処置も必要だし、やるべきことは山積している。
尤も、002のデータがあるからベースラインは整っている。
だが、これが問題なのだが――速度が違うのだ。
002はマッハ5のジェット機能。
009はそうではなくマッハ3が最高速度だ。
機能だけ見れば落ちるけれども、実はそうではない。
彼は市街でも使える加速装置なのだ。
002のように空ではない。地上なのだ。
地上仕様となるとまた勝手が違ってくる。・・・すべきことはまだまだたくさんある。
これは研究者としては喜ばしい事であり、無限に広がる可能性に胸が高鳴ってくる。

 

しかし。

これから改造されようとしている少年は、本当に自ら志願したのだろうか?
サイボーグになることを。
あるいは、集められた若者たちはみな、本当に志願して集まったのだろうか。

意識を混濁させてあるから、彼らの意思は汲み取れないし会話ももちろんできない。

 

しかし――

 

――彼らは本当に・・・?