「えっ!?ちょ、ちょっと待てって、――おいっ」
ナインは慌てて身を引いた。が、遅かった。
「や、だからフランソワーズ、それはっ……」
いったい何が起こっているのか、ナインには把握できていない。
否、もちろん状況はわかっているし、何が起きているのかもじゅうぶんすぎるくらいわかっている。
だが、そぐわないのだ。
理解できない。
いま自分の身に起きていることと、目の前にいるスリーとがどうしても繋がらない。
だってまさか――僕のフランソワーズがこんなことをするなんて!?
ナインの理解の範疇には存在しなかった。
否、訂正しよう。
まるっきり存在していないわけではない。
妄想の範囲でなら、あるいはと期待してみたこともある。
が、そういう期待は全てとうの昔に廃棄処分に出したのだ。
だからナインにいま残っている妄想の範囲というのは、スリーが持っているであろう少女漫画的妄想の範囲であった。
だから。
いま、自身の身になにが起こっているのか、ナインには理解不能であった。
「ふ、フランソワーズ、いったい――」
「えっ……触ったら駄目、なの?」
「いや、駄目じゃ…ナイ、が」
だけど。
だけどだけどだけど、ちょっと待て。
「だって気になるんだもの」
「き…気になる、って何が」
「大きさが違うのが」
「は」
何を言っている?
ナインが妙な汗をかくのをよそに、スリーはその手を離さない。
離さないどころか、さするように動かすからナインは下手に動けない。
動きを封じられてしまっている。
「な、何をいまさらっ……」
「だって、じっくり見せてもらったことないんだもん」
「い、いいじゃないか別に」
「んー。ジョーは見るくせに。ズルイわ」
「ずるくない。いいんだよ、男なんだから」
「わ。何よそれっ、時代遅れもいいところだわっ」
「子供はいいんだ、知らなくて」
「私、子供じゃないもん」
「子供だろ」
「じゃあジョーは子供とこういうこと平気でしちゃうの?」
「う……」
ついさっきまで官能的な時間を過ごしていた身としては言い逃れなどできようがない。
いつもならスリーにこんな言質をとられるようなことはないのだが、いかんせん、今のナインはそれどころではないのだ。
「前から気になっていたのよね……ね、ジョー。気持ちいい?」
「え!?」
「だって、なんだか熱くてどきどきしてる……」
「あ、いや、それは……っ」
じっとナインの一部と自分の指先を観察していたスリーが、不意に顔を上げた。
ナインの目とまともに出会った。
「ジョー。顔が赤いわ」
「う。うるさいな。いまちょっと大変なんだ」
「大変……何が?」
「何が、って。……いいから、手を離せ」
「イヤよ」
「フランソワーズ」
「だっていつもジョーばっかりズルイ」
「だからそれは」
「ね。ジョー。気持ちいい?」
「え、あ……」
いったいどこでどんな情報を仕入れたのだろう。
それとも無意識なのか。
スリーの手がなまめかしく動き、ナインはますます焦った。
無邪気なようで、実はナインのツボを的確に押しているのである。
このままでは――
「ね、ジョー。なんだか熱くなってるわ」
「う――ウン……」
「それにさっきより……ん。さっきみたいになったような……」
「え……ああ、そう……」
「ううん、さっきより大きい……?」
「え、あ、そう……だね」
「それに汗かいてるみたい……?」
ああもう、やめてくれ。
「ジョー?」
「なに?」
「……気持ちいい?」
「う……」
もしここで。
気持ちイイ――と言ってしまえば彼女は気がすんで手を離してくれるだろうか?
しかし。
「ねえ、ジョー。……なんだか私もドキドキしてきちゃったみたい…」
「!!」
その瞬間。
ナインはスリーを押し倒していた。
そのままの勢いで唇を奪う。
「ん、ジョー?」
「黙れ」
スリーに煽られた熱は、いつもより――熱かった。