こちらはオトナ部屋です!!
御注意ください!

「苦味」

 

 

「・・・フランソワーズ」


スリーの頬に、耳の後ろがわに、首筋に、鎖骨に念入りにキスしていたナインの声が胸元でした。
ぎゅっと目をつむっていたスリーはそうっと目を開いた。が、声の主は頭の先しか見えない。
再び胸のあたりにくすぐったくて熱くて柔らかい感触がして、スリーは身をすくめた。

「うーん・・・フランソワーズ、あのさ」

ナインは体を伸ばして、腕のなかのスリーを見つめた。
真っ赤にゆだってぎゅうっと目をつむっている。
ナインはふっと笑うと、その鼻先にキスを送った。

「・・・フランソワーズ」
「ん、なななあに、ジョー」

開いた瞳は潤んでいて、ナインはその目元にくちづけてから訊いた。

「・・・つかぬことを訊くけど、きみ、何か体に塗ってる?」

「えっ」

途端に不安そうに揺れる瞳に苦笑する。

「いや、その、いい匂いがするから、ちょっと」
「・・・つけてるわ」
「何を?香水?」
「ううん。ボディクリームみたいなの」
「ボディクリーム?」

なんだそれ、と眉間に皺の寄ったナインの頬をてのひらで包みながらスリーは続けた。

「・・・お肌がすべすべになるの」
「ふうん?」
「それにあの・・・香りもいいし、お風呂のあとにつけてるの」
「・・・前はつけてなかったよね?」

ナインの声にますます頬が赤く染まる。

「だって、汗の匂いが気になるんだもの」

それってつまり、いつ僕とこうなってもいいようにという準備?
と、ナインは照れ臭いような嬉しいような複雑な思いに囚われた。

「それがどうかしたの・・・?」
「うん。その・・・苦いんだよね」
「苦い?」
「うん。たぶんそれに入っている香料だと思うんだけど」

すると、スリーがぱっと体を起こした。
彼女の上にいたナインは危うく転がる勢いである。

「ご、ごめんなさいっ」

そうしてシーツとナインの間から逃れようとしたから、ナインは慌てて彼女の両腕を掴んだ。

「フランソワーズ?」
「すぐに落としてくるわ!」
「えっ?」
「シャワー浴びてくる!」
「えっ、いいよ」
「でも苦いんでしょう?」
「ん、まあね」
「だから、」
「落ち着いて、フランソワーズ」

先程までの頬の赤味が引いて、必死の形相のスリー。
ナインはその額にくちづけた。

「落ち着いて」
「でも、」
「苦いっていってもちょっとだけだし」
「でも、言うってことは、相当なんでしょう?」

ナインはちょっと黙った。

「ごめんなさい、ごめんね、ジョー。私っ・・・」

するとナインはくすくす笑い出した。

「ジョー?」

くすくす笑ったまま、スリーの肩に顔を埋める。
そうして小さく囁いた。

「・・・準備してくれてたんだ?」
「え!」
「前はしなかった。最近だよね?」
「・・・」
「これって、いつこうなるかわからないからだろう?」
「だ、だって・・・汗くさいの嫌でしょう?」
「全然」
「嘘よ」
「本当だって。それに汗の臭いなんてしないよ」
「嘘よ」
「ほんとだよ。だから、もう塗らないで」
「・・・苦いから?」
「それもあるけど」
「やっぱり流してくる」
「いいよ。待てないから」

ナインの声にスリーは再び赤く染まった。

「・・・苦いのもあるけど、その・・・フランソワーズの味がしなくなるから、さ」
「味?」
「そう。知らないだろ。美味しいんだぞ」
「嘘よ」
「ほんとだって。癖になって困る」

やっとの思いで言ったナインは、顔が熱くなるのをとめられなかった。

「・・・私もジョーの味が好きよ」

えっ?

思わず顔を上げると同時に肩を咬まれ、ナインは息をついた。

・・・ああそう。そっち、ね。

そうかそうだよなとひとりブツブツ呟くナインを不思議そうに見て、スリーは彼の唇にちゅっとキスをした。

「もう塗るのやめるわね?」
「うん・・・」

ナインの心は何とも複雑だった。

まったく、きみって子はどうしてこんなにドキドキさせるんだろう?

「・・・フランソワーズ」
「ん?なあに、ジョー」
「うん・・・」

 

アイシテルヨ・・・

 

 

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