悲鳴とも苦鳴ともつかない声が洩れる。
熱い吐息。
目元に滲む涙。
汗ばむ体。
虚空をさまよっていた手が捕えられ、その指先に熱いキスが送られる。
「ん・・・ジョー・・・っ、私・・・」
「大丈夫」
「でも、なんか変なの。ねぇ、これって・・・あ、」
ぎゅっと目をつむり、ジョーの腕に爪をたてるみたいに握りしめる。
「やっ・・・私、なんか変なのっ・・・」
熱い吐息。
真っ赤に染まる頬。
「ジョー、ねぇ、私」
「・・・うん?」
「・・・変よね。変だわ、こんなの、んっ」
何かを堪えるように息を詰める。
そして吐き出して。
「やだ・・・こんなの、・・・イヤ、ジョー、ねぇ」
涙がこぼれる。
「・・・嫌いにならないで」
「なるもんか。・・・可愛いよ、フランソワーズ」
「嘘よ、そんな、の・・・っ」
びくんと揺れる体。
「イヤ・・・どうなっちゃうの、私・・・怖い」
ジョーはスリーを抱き締めて、優しくキスをした。
「怖くないよ。・・・僕が一緒だ」
「ん・・・でも、もう・・・」
「大丈夫。僕のフランソワーズ。顔を見せて」
「だ・・・って」
スリーの瞳は涙でいっぱいで、大好きなジョーの顔も滲んで見えた。
「可愛い・・・」
ジョーがキスの雨を降らせる。
「・・・一緒にいこう」
「え・・・どこ、に?」
ジョーがくすっと笑ったみたいだった。
そして。
その後の事は憶えていない。
***
***
気が付いたら、ジョーの体がはんぶん私の上にあって。
伝わってくる鼓動の速さがだんだん、ゆっくりになって。
・・・だるかった。
「・・・ジョー?」
小さく呼んでみた。
実際、本当に蚊の鳴くような声しか出せなかったけど。
ジョーの肩がぴくんと揺れて・・・
「――フランソワーズ」
ジョーの声も掠れていた。
「・・・すごく、可愛かった――」
途端、さっきの感覚がフラッシュバックした。
「いやっ」
恥ずかしい。
あんな――声を出して。
それに、からだもいつもの自分と全然違っていて。
あんな姿をジョーはどう思っただろう?
――嫌いにならないで。
「フランソワーズ。可愛かった、って言っただろう?」
頬にちゅっと音をたててキスされた。
「だって・・・」
「それにね」
ジョーが笑う。なんだかとても嬉しそうに。
「なあに?」
「ウン――」
でもにこにこ笑うばかりでちゃんと答えてくれなかった。
「ジョーったら」
「――ウン。そうだな。・・・うん。今度からは一緒にいけるなあ、って、ね」
またさっきと同じことを言う。
でもね。
ジョー。
いく、っていったいドコに?
***
「エロスによるリビドーの解放さ」
ジョーが真面目な顔で答える。
だから私も姿勢を正した・・・つもり。だるくて力が入らないから、実際寝ているしかなかったけれど。
そんな私を優しく見つめ、ジョーは続けた。
彼は本当になんでも知っている。私をオコサマ扱いするのは当然かもしれない。
だって私は本当に――何にも知らないから。彼から見れば。
「その解放がされなければ、人間というものは欲望のみで生きることになってしまう」
「・・・それは駄目よね。でも、どうしたらその解放っていうのができるのかしら」
「なんだ。まだわかってないのかい?」
ジョーが私の鼻の頭にキスをする。
「さっき、ふたりで解放したじゃないか」
「え・・・あれがそうなの?」
「そうだよ」
「エロスによるリビドーの解放?」
「そう。実に神聖なものさ」
さっきのが。
でも――
「じゃあ、いったのは解放された精神世界ってことなのかしら」
「そうなるね」
「その・・・何度もいくようになれるのかしら」
「――はっ?」
「だって、言われたもの。日によっては何度もいくことがある、って。
そんな神聖な場所に何度もいっても大丈夫なのかしら」
「・・・さあ・・・どうだろう」
でも疲れると思うよ。
と、ジョーは小さく言うと私の隣に寝転んだ。
「ね。ひとりでいっちゃいけないって言われたけど、そうなの?」
「うん。絶対に駄目だ」
「でもジョーはいったことあるんでしょう?」
「男の僕が先にいって安全を確かめなくてどうする」
「ああ!そうよね。そうだわ」
ジョーはいつでも私の安全を最優先してくれる。
それが嬉しい。
「ねえ。じゃあ、もう一回いきましょう」
「えっ?」
「せっかく憶えたんだもの。エロスによるリビドーの解放」
「そ、・・・」
「ジョー?」
ジョーは大きく息をつくと、ぎゅっと私を抱き寄せた。
「――きみは初心者だから、今日はもう駄目だ」
「そういうものなの?」
「そういうものだ」
「じゃあ、いつかは何回も一緒にいってくれるのね」
「・・・努力します・・・」