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「耽溺」

 

 

その時の僕はどうかしていたのだろう。
いつもなら、絶対にしないことをしてしまった。

ごめん。フランソワーズ。
ごめんね――

 

***

 

もう何度目だったろうか?
数えるのはやめようと決めてから大分経っていたから、そんなに慣れてないわけではなかったと思う。
そう――少しは慣れてきたのだ、二人とも。
お互いの肌を合わせるのが。
お互いに触れるのが。

だから――油断した。

今までは細心の注意を払って丁寧に進めていたのに。
なんということだ。

今でも自分が信じられない。
あんな――あんな風になってしまう、なんて。

 

***

 

僕はフランソワーズと深く繋がりたかった。
深く――深く、深く。
彼女と一体になること、それだけしか考えていなかった。
否、考えられなかった。
このまま進めばどうなってしまうのかなんてことも浮かばなかった。
ただ、深くしっかりと繋がりたくて、繋がっていたくて。
だから僕はそれしか考えられず進んでしまった。

もっと――もっと――もっと。
どうすれば、もっとしっかりと彼女を感じられるだろうか。
どうすれば、もっと深く繋がることができるだろうか。

言うなれば、そんなことしか考えられなくて
頭の中がそれだけを求めてしまっていた。

だから、フランソワーズが苦痛を堪えるように訴えてきた時は本当に驚いたんだ。
僕は。
なぜか――フランソワーズがそこにいたことさえも、忘れてしまっていたのだ。

「ジョー・・・お願い。もう・・・無理なの」

えっ。

「許して・・・」

顔を上げると、そこには目に涙をいっぱいに溜めたフランソワーズの顔があった。
頬が上気して髪が乱れて、そして――辛そうだった。
何かを堪えるみたいに眉間に皺が寄っている。
僕の腕にかかった手はかすかに震えていた。

「・・・フランソワーズ?」
「頑張ろうと思ったの。でも・・・もう、これ以上は・・・壊れちゃう」
「・・・そんなことは」

ないよ。
と、言おうとした唇が凍りついた。

――僕は。

僕はいったい、何をした?

冷水を浴びせられたかのようだった。
霞がかった意識がはっきりしてくる。

思わず腰を引いた。

「フランソワーズ、大丈夫かい?」
「・・・ん・・・だいじょうぶ、よ」

健気に笑んでみせようとするけれど、失敗していた。
堪えていた涙が一筋こぼれおちた。

「フランソワーズ、ごめん。その」
「いいの。私が駄目なの。・・・いつまでも慣れないから」
「そんなことないよ、僕が」

僕が悪い。

いつもはちゃんと――もっとちゃんと、自分を抑えることができるのに。
いつもはもっと、フランソワーズに気を配って、辛くないように痛みを感じないように
無理をさせないようにしていたのに!

なんなんだ、これは。

こんなの――愛情の確認でも何でもない、ただの欲望じゃないか!

「フランソワーズ」

僕は完全に身を退いた。
そしてそうっとフランソワーズの髪を撫でた。

「ごめん。・・・大丈夫かい」

大丈夫ではないのは明らかだった。

「大丈夫・・・ごめんなさい、ジョー。私っ・・・」

僕は唇を噛んだ。
砂を噛んだような不快感が広がってゆく。
自分で自分を嫌悪した。
否。憎悪した。

誰よりも大切なフランソワーズ。
だから、大事に大事に――本当に、大切にしてきたのに。
なのにこの有様はなんだ。
こんなに辛い目に遭わせて、それで気付かなかったなんて許せるわけが無い。
我慢させてしまったのは、きっと僕が聞く耳を持たなかったからだろう。

フランソワーズ。
痛かったよね?
怖かったよね?
無理をさせたよね?

いったい僕はなんなんだ。
どうして――我を忘れるくらい没頭したんだ。

こんな――こんなことは初めてだった。

今までは、どこか冷静な部分をちゃんと残していた。
自分を完全に制御できていた。
だから、自信があったんだ。
僕は女の子の嫌がることをしたり無理させることは絶対にない、。って

それがどうだ。

大切なフランソワーズに限って、我を忘れるなんて。

――僕は。

 

***

 

あの日以来、僕はフランソワーズと会っていない。

 

 

 

 

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