こちらはオトナ部屋です!!
御注意ください!

 「吐息」

 

 

脚と脚の間にひとの顔があるなんて状況は、絶対に普通じゃないと思う。
しかも、それが脚の付け根に近いところだなんて。

私は恥ずかしがればいいのか、怖がればいいのか、それとも――
――ともかく、こういう場合はどうするのが普通の反応なのかわからなかった。

「フランソワーズ。・・・イヤ?」

イヤなワケじゃない。
ただ、

「ん・・・ちょっとくすぐったいの」

そう言うとジョーは少し笑ったみたいだった。
気配だけ。
だって今、彼の顔は見えない。

ジョーの手が腿にかかり、私は驚いて身を引いた。
だって。

なんだか――熱い。ジョーの手が。

「フランソワーズ。・・・大丈夫だから。僕を信じて」
「ん・・・」

どうしよう。
もちろんジョーのことは信じている。最初に言ってくれたもの。
フランソワーズの嫌なことはしないよ、って。
だから、私は安心して彼に身を委ねたのだけど。

「ね、ジョー?」
「うん?」

時間かせぎをしようとした訳じゃないけれど、でももうちょっと猶予が欲しくて
私はジョーに話しかけていた。
ジョーはそんな私に合わせてくれている。
ちょっと嬉しい。

「これって、前に言ってたことのひとつ?」
「・・・うん?」
「えっと、その・・・前に言ったでしょう。オトナになるのってまだまだ先があるんだよって」
「――うん」
「その。・・・こういうのも、そうなの?」

返事が聞こえなかった。

「ジョー?」

代わりに。

「え、や、・・・ジョー・・・?」

いま何をしているの。

ジョーの声が聞こえなくて、急に不安になった。
だって、ジョーの顔も見えない。
大好きな黒い瞳も見えない。
ここにいるのは、本当に――ジョーなのだろうか。

「・・・ジョー?」

そんなところを舐めて楽しいの?

・・・気持ちいいのだろうか?

私は、顔が見えないし声が聞こえないし、なんだかひとりぼっちのような気分になった。
いくらジョーの両手が腿にかかっていても、それでも寂しかった。

けれどもジョーの声は聞こえない。

一生懸命な雰囲気は伝わってくるけれど、でも悲しかった。
だってこんなの。
私ひとりでいるみたいで。

もちろん、ここにいて私に触れているのはジョーに間違いない。
私はジョーとしか、こういうことはしない。

でも。

あれこれ何かしてくれているみたいだけど、でもそんなのより私はジョーの顔を見たかった。

「・・・ジョー?ねぇ、いま・・・」

顔を見せて。

声を聞かせて。

名前を呼んで。

望んでも叶えられない。
一緒にいるはずなのに、ジョーの温もりを感じない。

私はひとり。

なんだか急に寒くなって、そして――涙が出た。

「フランソワーズ」

ぎゅっと目をつむっていたら、耳のそばで熱い声がした。
そうっと目を開けると、すぐ前にジョーの黒い瞳があった。

「ジョーっ」

思わず抱き締めてしまう。
だって。
独りぼっちみたいで嫌だった。
凄く寒かったし、寂しかった。

ジョーはくすりと笑ったみたいだった。

「・・・ジョー?」
「どうして泣くの?」

そうっと目元にキスをしてくれる。右と左。両方に。

「・・・わからない」

そうして唇に。
ジョーの唇は熱くて、凄く――

「・・・力を抜いて」

優しく言われる。でも。

「大丈夫。痛くないから」
「・・・でも」
「痛くないようにしたから」

どうやって?

「僕を信じて」

私はジョーの熱い身体から伝わる熱に身を任せた。
信じてるから。
大好きだから。

だから。

「ジョー。だ――」

大好き、って言おうとしたのに。
あとは吐息に変わってしまった。

「・・・フランソワーズ」

ジョーの声も吐息に変わる。

身体が熱くて。

ジョーも熱くて。

だから、ジョーが何て言ったのかわからなくなってしまった。
それは、囁きだったのか、吐息だったのか。

――アイシテイルヨ――

 

 

きっと、空耳じゃない。


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