「仲良しな二人?」

仲がいいのか悪いのか、わからない昭和組。
当サイトではこの二組が一緒に遊ぶお話が数話ありますが、003はともかく009同士は果たして仲良しなのかどうなのか?
そんなわけで、とある日の009を003がウオッチングしました。
便宜上、旧ゼロのふたりは「ナイン」「スリー」、新ゼロのふたりは「ジョー」「フランソワーズ」と表記します。


@ とりかえっこ

 

「ねぇ・・・本当に大丈夫かしら、二人っきりにさせて」
「大丈夫よ。本当は仲良しなんだから」
「・・・そうかしら」
「そうよ!・・・ほらっ、出てきたわよ――いやん、何よあれっ!!」

009対決してくる――と勢い込んで出かけていったふたりの009。申し合わせてこっそり後をつけてきたふたりの003はとある建物の外で気を揉んでいた。見ようと思えば中の様子は見えるけれど、009を相手にそれはしたくなかった。
しかも、今は闘いではないのだ。例えふたりの009がそう思っていたとしても。

そうして待つこと数分。
出てきたふたりを見て驚いたのはフランソワーズだけではなかった。スリーは声もない。

「いやーん、ジョーったらカワイイっ」

胸の前で手を組み合わせ身をよじるフランソワーズ。

「・・・ナイン・・・全然、似合ってない・・・」

スリーの目に映ったのは、いつもの赤いマフラーで颯爽としたナインではなく、真っ赤な防護服に黄色いマフラーをなびかせたナインだった。落ち着かないのか、しきりに自分の姿を気にしている。上着の裾を引っ張ってみたり、マフラーを手にとって手触りを確かめたり。背中のジッパーが気になるのか、後ろを見ようとして身をのけぞらせ――ひっくり返った。

「ナインっ!!」

悲鳴のような声とともに駆け出したスリー。必死の形相である。
が、その隣のフランソワーズはうっとりと虚空を見つめたままだった。もちろん、彼女の目にナインなど映ってはいない。

「ジョーったら、どうしてなんでも似合ってしまうのかしら。ちょっぴり悔しいけど、でも・・・白い防護服に赤いマフラーっていいわねぇ・・・――あら?ジョー?変ね」

自分の視界から忽然と姿を消したジョー。いったい彼はどこに行ってしまったのか。
そんなことには関係なく、スリーは加速装置を使ったかのような素早さでナインの元に到達していた。

「ナインっ、大丈夫?」
「え、あ、うん」

しりもちをついたのが照れくさいのか、頬を染めていつもよりぶっきらぼうに答えるナイン。が、そんな彼には慣れっこなのかスリーは彼の反応に全く構わず、ナインのそばに座り込んだ。

「どうして赤いのを着てるの?とりかえっこしたの?」
「えっ・・・まぁ、そんなもんかな」
「仲良しなのね」
「違うよ!」

きっとスリーは「ちょっとお互いの着てるものを替えてみようぜ」という和やかかつ深い意味のないふたりの遣り取りを想像しているのだろう。けれど、実際はそんなものではなかった。もっと――クダラナイ理由であった。

「じゃあどうしてなの?」
「・・・自然の不条理だ」

苦い顔で言うナイン。スリーはじいっとその顔を見つめ――しばらくして小さく言った。

「最強の戦士はやっぱり白でなくちゃ、ね。・・・私はその赤いのも好きだけど」

一方、フランソワーズはジョーの姿を探していた。目で見えないときは――耳で探す。目を閉じて、じっと耳をすませた。加速しているであろうことはすぐにわかったから、それならば音で彼の位置を知るしかないのだ。が、実際には目を閉じて耳をすまそうとする一瞬前に、目の前にジョーが姿を現していた。

「ジョー!」
「やあ。――へぇ。これも特殊繊維で出来ているんだな。燃えないや」

自分の着ているものをあれこれ検分し、嬉しそうに言うジョー。フランソワーズは、けれども彼の言葉なんぞ聞いてはいなかった。

「かっこいいっ」
「え?」
「似合うー。やだ、ジョーって何でも似合うのね」
「え、そう・・・?」

テンションの高いフランソワーズを見つめ、ジョーは一歩後退した。

「いやん、新鮮だわっ。あなたって仕事の時はいっつも赤い色だから」
「仕事?」
「ええ。防護服の時もレーサーの時も赤いのを着てるもの!」
「防護服は・・・みんな同じ色じゃないか」
「そんなのどうでもいいの!だからジョーはやっぱり赤かしら、って思っていたんだけど、いやん。白も素敵!」

やっぱり赤かしら、って、いったい何がやっぱりで何が赤なのかさっぱりわからないジョーである。

「別に、ただ素材を見てみたかったから借りただけで」
「どうしようかしら!博士に言って、白いのを作ってもらおうかしら」
「フランソワーズ。聞いてる?ちょっと借りただけで別に僕は」
「いやん、どうしようっ」

全く自分の言葉を聞いていないフランソワーズにジョーはそっとため息をついた。

 



A ボクシング

 

「頑張ってね、ジョー」
「うん」
「絶対、勝ってね」
「もちろんさ。僕はこういう格闘技系は得意なんだ」

格闘技系というよりは「ケンカ」が得意なのだけれど、そこはお互いにつっこまない。ともかく、ジョーは肉弾戦が得意なのは間違いがない。絶対に負けない。

「頑張って!」

頬にキスして送り出した彼女にジョーは

「任せとけ!」

笑顔で答えた。

一方、対するナインたちはその時何をしていたのかというと。

「頑張ってね、ナイン」
「ああ。もちろんさ!スリー、君は僕を誰だと思ってるんだい?正義の戦士、009だぞ。正義は勝つ!そう決まってるんだ」
「ええ、それはそうだけど、でも・・・向こうは元不良よ?ケンカとかきっと慣れていると思うの」
「不良なんてどうってことないね。粛清してやるだけさ!」
「卑怯な手も使うかもしれないわ。武器とか」
「大丈夫だ、って」
「だって不良よ?どんな手でくるかわかったもんじゃないわ!ねぇ、ナイン。今からでも遅くないわ、やめましょう、こんな勝負」
「冗談だろう?不戦勝にさせてたまるもんか」
「でも、ナインが怪我したら、私っ・・・」
「・・・スリー」

ナインは、そんなに自分のことが心配なのか、やれやれ困ったなあこれじゃあ行けないじゃないかとじっとスリーを見つめ、ああなんてカワイイんだろう、リングに立つ前にちゅーしてもいいかなあなどなど考えていた。しかし、続くスリーの言葉に声を失った。

「ナインが怪我したら、私っ・・・すぐに敵討ちに行くから、タッチしてね!」
「え?」

タッチ?

「いい?ダウンする前に私にタッチするのよ?」

スリーにタッチ?

なぜ?

「だって私はナインのパートナーだもの!あなたが倒れたら私が行くに決まってるでしょう!」
「そ・・・」

そんなことはさせないぞ。じゃなくて、そんなことは聞いていない。そんなルールにしたんだっけ?
そうして対面コーナーの新ゼロのふたりを見る。が、ちょうどその時、フランソワーズがジョーのほっぺにちゅーしていたのでナインは見るんじゃなかったと顔を歪めた。

「ったく、いつもいつもイチャイチャしやがって!」
「仲良しねえ、あのふたり」

スリーも同じ方を見つめ、うっとりと言った。

「えっ?」
「・・・ナインはそういうの、好きじゃないものね?」
「え?そういうの、って・・・?」
「・・・いってらっしゃいのちゅーをするのとか、よ」
「いってらっしゃいのちゅー・・・」

それは初めての経験である。そんなもの、誰からも受けたことはなかった。

「今日は非常時だから構わないぞ」
「え?」
「許す」
「許す、って・・・ちゅーしてもいいの?」
「ああ」

何故か威張ったように言うナイン。こちらを向かずに顔をまっすぐ前に向けたままだった。微かに頬が赤い。

「じゃあ、ちゅーしちゃうわよ?」
「ああ」

そうしてナインの頬に小さくちゅっと音がした。

「が、頑張ってね、ナイン」
「おっ、おうっ」

なんだかお互いに照れてしまって、言葉はしどろもどろだった。果たしてこれで勝てるのだろうか?

結局、勝負は引き分けだった。
お互いのパンチが炸裂し、同時に昏倒したのである。

「ジョー!!立って!!立つのよ、ジョー!!」

必死の形相だけど、どこか楽しそうに言うフランソワーズ。

「ああっ、ズルイわ!!」

スリーはそれを見てじたばたした。

「私も言いたかったのにー!いいわ、言うもん!立って、ナイン!!立つのよ、ジョー!!」

それを聞いたフランソワーズはきっとスリーを睨んだ。

「約束が違うわ!そっちはジョーって呼んじゃいけないのよ!」
「だって、ズルイわ!ボクシングだって知ってたからそういうルールにしたんでしょう!」
「あら、いけない?」
「やっぱり知ってたのね!!」

昏倒していたふたりの009がうっすら覚醒した時には、既にふたりの003がリング中央でにらみ合っていた。

「・・・フランソワーズ、何をしてるんだい?」
「あなたの敵討ちよ!」
「・・・これは相打ちだから、敵討ちとは言わないよ」
「いいの!あなたは黙ってて!」

「スリー。まだタッチしてないぞ」
「したわ!手をぱちん、ってしたもの!」
「・・・それは君が勝手にそうしただけの話であって」
「もうっ!いいから、黙ってて!」

ふたりの009は何とかからだを起こし――そうして、今にも一撃を繰り出しそうな003をそれぞれ羽交い絞めに・・・否、背中から抱き締めて動きを封じた。

 



B 釣り

 

「まずいわ・・・ジョーは釣りが苦手なのよ」
「そうなの?ナインはとっても上手よ。サバイバルに向いてるんですって」

釣り対決なので、ふたりの003は邪魔にならないよう遠くでふたりの009を見守っていた。

「じゃあ、これはナインの勝ちね。彼ね、キャッチ&リリースは好きじゃないって言ってたから、全部食べなくちゃいけないのよ。うふふ、何を作ろうかしら。煮るのも焼くのもいいけど、おさしみって手もあるわね」

いったいどこで釣っているのか秘密である。川なのか海なのか。どんな魚が釣れるのか。
そんなことにはお構いなく、どんどん釣ってゆくナインを頼もしそうに見つめ、スリーは献立を考えていた。

一方、フランソワーズはずっとはらはらし通しだったが、ことここに至っていてもたってもいられなくなってしまった。

「凄いわね、ナインってどんどん釣れ・・・・ああっ!!ジョーっ!駄目よ、落ち込んだら!ああもう、・・・いやん、どうしてたいく座りしちゃうのよー!」

ナインをちらりと見て、自分の手元を見て俯いてしまったジョー。そして次に腰を降ろしたと思うと、膝を抱えて小さくなってしまったのだ。じっと水面を見つめているが、瞳の暗さは隠し切れない。

「だめよ、泣いたら!泣いちゃ・・・ああっ、もうっ!」

そうしてざばざばと川を渡り始めた(ああ、川釣りだったんですね)。フランソワーズにとってジョーがたいく座りをするというのは本当の非常事態なのである。何をさしおいてもすぐに駆けつけなければならない。でないと、ジョーが泣いてしまうのだ。ジョーの泣き顔は絶対誰にも見せないと誓っているフランソワーズにとって、目の前が川だろうが海だろうが地雷原だろうが全く関係ない。愛の力はそれをも凌駕するのだ。

「ジョーっ!!」

砂漠で彼を見つけたときのように駆けつけるフランソワーズ。しかし、ジョーはぽつねんとうつむいたまま顔を上げない。
フランソワーズは彼の手から無理矢理釣竿を引き剥がすと、無造作にぽいっとどこかに放った。
そうしてジョーの顔を覗きこむようにして優しく言った。

「・・・ジョー?釣りなんてどうでもいいわ、私、お魚好きじゃないもの」
「・・・」
「大体、お魚だっていきものなのよ。釣って喜ぶなんてよくないわ。だから釣りなんて好きじゃないの」
「・・・」
「ジョーは走るのが速いし、ケンカも強いし、狩りのほうが似合うわ!私、お肉のほうが好きよ?」
「・・・・・・・・本当?」
「本当よ!ね?釣りなんてやめちゃいましょう」
「・・・でも」
「あの二人は放っておいて、私たちは何か美味しいものでも食べに行きましょうよ。ね?」
「・・・そうだね」
「そうよ!釣りなんて一緒にいてもつまらないもの!つまらないひとになっちゃうわ!」

全国の釣り同好会を敵に回すような発言を繰り返すフランソワーズ。ジョーはどうぞ釣り好きのひとが聞いていませんようにと祈りつつ腰を上げた。

 


勝負は持ち越し?