「私だけの彼」

 

 

ジョーって有名人なんだなぁ・・・って思うのは、彼の姿をいつも通る場所で見かけた時。
シーズン中は何度もテレビで観るのに、オフになっていつも隣に彼が居ると「彼は有名人」だということをすっかり忘れてしまう。ジョーもジョーで、そんなのお構いなしに外を歩くから、余計に感じないのかもしれない。
実際、ジョーの言う通り「そんなに気付く人なんていないさ」だったけれど。
でも今日は違う。
だって、ほら、ここにこうしていてもジョーの姿が目に入ってしまう。どちらを向いてもジョー。ジョーばっかり。

 

***

 

今日は午前中からレッスンだった。
だから、ジョーを起こさずにフランソワーズはギルモア邸を後にした。
ジョーを起こすのに時間がかかるのと――たまには電車で行ってみたい時もあるのだ。ジョーの送迎は嬉しいけれど、いつもいつもそうだとたまに息苦しくなる時がある。だから今日は電車を使った。ジョーには内緒で。

ギルモア邸の前の長い坂道を降り切ったところに、一時間に5本しか走らないバスの停留所がある。
ここは都会のはずなのに――と、時刻表を見るたびにいつも思う。が、こんな誰も住んでいない辺鄙なトコロへバスが通っているというだけでも有り難かった。
バスに乗って最寄の駅までは約20分。そしてバスを降りて、駅の構内へ足を踏み入れ――フランソワーズは声もなく立ち止まった。

よく知っているひとがいる。――たくさん。

島村ジョー。別名、ハリケーン・ジョー又は音速の騎士。
先日ワールドチャンピオンになった男。
そして今は、部屋でまだ眠っている――昨夜、ピュンマとゲームをやりすぎて私に叱られたひと。

そのひとが駅構内の壁という壁に――いる。

――なにこれ。・・・聞いてないわよ、ジョー。

傍らには嬌声を上げて壁から剥がす女子高生のグループ。よく見てみれば、あちこち剥がされた後がたくさんあった。

「・・・・」

軽く肩をすくめ、改札を通り電車に乗った。そして再び声を失った。
何故ならそこにもいたのだ。
ジョーが。

中吊りの彼はあっという間に――それこそ、見ている間に外されてしまう。
車内の広告スペース全部がハリケーン・ジョー一色だった。

軽くため息をついて視線を車外へ移す。
流れてゆく景色はいつもと変わらず、フランソワーズはやっとものを考える時間ができたとほっとした。
が、それも束の間。
とあるビルの上にある大看板にソレがあったときには、冗談ではなく腰が抜けるかと思った。

もうっ、心臓に悪いわ!!

隣の女子高生たちは戦利品を広げて見入っている。

「かっこいいよねー!」
「私絶対、これ買う!そしたらポスターがついてくるかもしれないもん」
「ジョーもつけてるのかなぁ」
「ヤダ、そしたらお揃いジャン!!」

・・・残念ながら、ジョーはつけてないわ。そういうのは。

心の中で返事をする。

大体、こういう仕事もしていたなんて――聞いてないわよ、ジョー。

そう――街は島村ジョーがモデルを務めているある製品の新作ポスターで埋められていたのだった。

 

 


 

 

考えてみれば、クリスマス商戦緒戦である。
各社がこぞって新製品の発表をしたり、コラボ企画をしたり、ともかく目を引くことをする時期なのだ。
だから――

冷静にそう思ってはみるものの、街中に溢れるジョーのポスターに、フランソワーズはくらくらしてきた。
バレエ教室のある最寄り駅前で配られた新製品のサンプルを軽く振ってみる。

――あら。意外といいかも。

でもジョーに似合うかどうかは別問題だわ・・・
けれども、宣伝しているモデルにそれが似合うかどうかなんてあまり関係ないのだろうかとあれこれ考えながら教室のあるビルへ入った。

 

***

 

「ジャーン!!」

擬音とともに目の前に広げられたそれに、フランソワーズは数度瞬きをした。

「・・・どうしたの、これ」
「今朝ちょいとくすねたのよ」
「くすねた、って、それって犯罪・・・」
「まま、硬いこと言いっこナシ、よ。大目に見てよフランソワーズ」
「・・・ハイハイ」

先程駅で見たポスターが何故か更衣室にあるのだった。
それも一枚や二枚ではない。壁に貼ってあったり、こうして手で持って広げられていたり・・・

「――ねぇ?」
「んー?」
「どうしてここに貼ってあるの」
「ああ、それはフランソワーズのぶんだから」
「私?」
「そ。そりゃアナタは普段見慣れているでしょうけれど、こういうポーズをとっている図っていうのも貴重じゃない?」
「・・・・」

フランソワーズのロッカーに貼ってあったのは、電車の中吊り広告で、いま更衣室にあるポスターよりも随分小さかった。が、ジョーが写っていることには変わりがない。

「・・・別に、欲しくないわ」
「またまた、お嬢さん。これ、間違いなく今年の大ヒット商品になるわよ!もっと喜びなさいよ」
「でも、この広告は要らない」
「持ってなさい、って」
「いりません」
「・・・じゃあ、本当に他の子にあげちゃうわよ?」

じっとりと絡みつく視線をまともに受けて、フランソワーズはややたじろいだ。

「い、いいわよ、別に」
「ほんっとうにあげちゃうわよ?」
「いいわよ?」
「ふーーーーん。いいんだ。音速の騎士のアラレモナイ姿が他の子の手に渡っても」
「あ、あられもない、って、そんな」
「だってそうでしょーが」
「これはオシゴトよ?」
「でも、目の保養になる、って思わない?」

頬を膨らませ、むっつりと黙ったフランソワーズの手に無理矢理それを持たせた。

「いいから、持ってなさい、って。後でじっくり見るぶんには誰も何にも言わないからさ」
「・・・・」

とりあえず、そうっと手元に目を落とす。

「・・・・っ」

今朝からあちこちで目にしていたものの、改めて身近で見るとまた格別だった。

――ち、違うわ。格別、って何なのよ。こんなの、私はよく見ているから慣れているし・・・

けれども、一体ジョーはいつの間にこういう仕事をしていたのだろうかと思うのだった。
何しろ、一切何も言っていなかったのだ。

 



 ギルモア邸

 

朝食後、リビングで朝のワイドショーをコーヒー片手に見ていたジェットは、いきなりコーヒーを噴いた。

「うわっ!!なっんだよ、これ!!」

そして腹を抱えて大笑い。

「いやー、傑作だ、傑作!!なんだよこれ!!」

笑い転げているジェットに通りかかったピュンマが冷たい視線を送る。

「うるさいぞジェット。朝からいったいなんだ」
「いいからいいから、ちょっと見てみろって」

指差すのは大画面テレビ。
のどかに洗剤のCMが流れている。画面の中では軽やかなスキップを披露する島村ジョー。

「・・・これがどうかしたのか?」

随分前のCMじゃないか。まだやってたのか・・・と変なトコロに感心しつつ、けれども、ジェットが今更これを見て大受けするとは不思議だった。初回放送当時、さんざん笑い倒したのだから。

「いいから!見てろ、って」

次に映ったのは、車のCMだった。華麗なドライビングを披露する島村ジョー。と、その隣には某国の女王と思しき女性の後ろ姿。ふたり寄り添ったところにテロップがかぶってゆく。

「・・・これがどうかしたのか?」

これは特に笑いドコロはないはずだった。
このCMを初めて見た時のフランソワーズは大変だったんだよなぁ・・・と、当時をしみじみ思い出す。
全く、あの時はどうなることかと思ったよ。と、兄として若い二人の行く末を思い遣ったりして。

「ダーッ、次だよ、つ・ぎ!!」

どうやら「レーサー・島村ジョー」のCM特集だったらしく、いったんスタジオに戻り、司会者がなにやら説明を始めた。

「・・・ジョーが何か賞でもとったのか?」

でもCM大賞とかって年末にあったかな・・・?
などなど思いつつも、ジェットにならって画面を見つめる。

『さて!お待ちかねの次は、今朝首都圏の主要駅をジャックした音速の騎士のCMです!!』

・・・首都圏の主要駅をジャック?ジョーが?

いったい何をやらかしたんだ。

不審に思うピュンマの目に映ったのは――

「なんだこれ!!」

 


 

 

風に揺れる白いレースのカーテン。
その部屋の中の広いベッドの上には島村ジョー。
軽く寝返りをうって、額にかかる髪をかきあげつつ体を起こす。
上半身は裸で――腰から下は、シーツに覆われている。
髪の間から見える褐色の瞳のアップになって――
「彼の香りに包まれて――Valse brillante」というテロップが重なる。

 

・・・という、CMだった。

「・・・・・何だコレ」
「傑作だろ!真面目な顔して何してやがるアイツっ!」

笑い転げるジェットと、ただ呆然と佇むピュンマ。テレビでは繰り返しそのCMが流されている。

『いま街中では大変な騒ぎらしいですよ。次々とポスターが剥がされていくとか』
『いやー、私もいちまい欲しいです』
『ちなみにこの製品は・・・?』
『もちろん、買いますよ!――で、ポスターはついてくるんでしょうか?』
『残念ながら、非売品です』
『発売は、11月22日土曜日から、全国の百貨店でお求めになれます』
『売れるでしょうねぇ・・・』
『売れますねぇ。男性でも欲しいと思いますし』
『これからクリスマスですからね。プレゼントとしてもいいんじゃないですか』
『ちなみに香りは柑橘系でさわやかな感じですので、男性でも女性でも使えるそうです』

 

****

 

昼過ぎにぼんやりと起きてきたジョーは、コーヒー片手に部屋へ戻る途中、ずうっとリビングであちこちのチャンネルを回しまくっていたジェットと、なりゆきでそれに付き合っていたピュンマに捕まった。

「――何?眠いんだけど」

起きたらフランソワーズはとっくにレッスンに出かけた後だったし、先程「迎えに行くよ」とかけた電話は冷たく切られ、ジョーはすこぶる不機嫌だった。

「お前、ちょっとここでこの格好してみろよ」
「この格好・・・って何が」

不審そうにジェットを見て、無言で示されたテレビを見る。
そこには、どうやら誰かが録画したらしい、自身のCMが映っていた。

「――ああ、コレね」

なーんだ、そんなことか。じゃあ――と踵を返すジョーの腕を掴み、にやにや笑いを浮かべるジェット。

「まま、いいからさ。ちょっと座れ、って」
「僕は忙しいんだ」
「ヒマだろーが!いいから、座れ、って」

無理矢理肩を押され、ソファにしぶしぶ座る。
すると、持っていたコーヒーを取り上げられたかと思うと――着ていたシャツを剥ぎ取られ、上半身裸に剥かれてしまった。

「なっ・・・・」
「うん。下はジーンズか。・・・ま、ポスターはソレだしいいか」
「なんだよ」
「ほれ、そのまま転がってみ?ちょうどポスターみたいにさ」

ジョーは無言でジェットを睨みつけた。

「いいじゃねーか。本物がここにいるんだしさ。ちょっとやってみろよ。セクシーポーズを」
「・・・・・メンドクサイ」
「ちょっと転がってみるだけだろう?俺にも教えてくれよ、悩殺ポーズをさ」
「悩殺・・・」
「そうそう!フランソワーズだってイチコロさ!」
「・・・フランソワーズ」

彼女は別に何もしなくてもいつでもイチコロなんだけどな・・・と思いつつ、あまりにジェットがしつこいので渋々ポーズをとってみる。

「おおっ!オトコマエっ!くぅ〜っ。いいねえ」
「・・・・」

何だかまんざらでもないジョーなのであった。

「今度はホラ、髪をかきあげて両目を見せて・・・そうそう!おおっ。やるねぇ、ハリケーン・ジョー」

だんだん悪乗りしてきたジョーとジェットは、それから様々なバリエーションで遊びだした。
それに夢中になっていたので、いつの間にかそのカノジョが帰宅なさったことには二人とも全く気がついていなかった。

「・・・おい」

ピュンマが横目でフランソワーズを見て、ジョーとジェットの悪乗りをたしなめる。が、そんな程度では仲のいいふたりの悪ふざけは止まらない。

音速の騎士のカノジョは、テレビ画面をじいっと見つめ――すうっと目を細めた。そして。

「なにやってるの?ふたりとも」

 

****

 

ジョーが耳を引っ張られるようにして階上に消えてから――シンとしたリビングにはCMの音声だけが響いていた。

「あーあ。きっとまたもめてるぞ。どうするよジェット」
「はあ?俺のせいか?んなの知らねーよ」

 


 

 

 

「で?」

ジョーは前髪を掻き上げて、じっと見つめた。その褐色の双眸からは何も読めなかったので、フランソワーズは思わず一歩後退しかけ、けれどもこれじゃいけないわと自分を叱咤し踏みとどまった。

「で?じゃないわ。どうして言ってくれなかったのよ!私がどんなに驚いたかわかる?」

そうしてジョーの目の前に中吊り広告を広げてつきつける。

 

彼の香りに包まれて・・・

新製品「Valse brillante」

「・・・言ってなかったっけ?」
「聞いてないわ。大体、何なのその格好」
「ん?――別に?」

一瞬いたずらっぽく煌いた褐色の瞳をフランソワーズは見逃さなかった。

「も、ジョーのばか!」

 

***

 

迎えに行くよというジョーの電話を一方的に切って、レッスンのあと一目散にギルモア邸に帰って来たフランソワーズは、リビングで談笑中のジョーを捕まえて部屋へ引っ張ってきたのだった。
フランソワーズの部屋の可愛い花柄のベッドカバーの上に腰掛け、ジョーは全く悪びれず彼女を見つめていた。

「酷いよなぁ。迎えに行くって言ったのに、さっさと電話を切るんだもんなぁ」
「迎えに来るって、冗談でしょ?」

何しろ街中に彼のアラレモナイ姿が溢れているのだ。当の本人が呑気に現れたら、一体どういうことになるのか。
全くわかっていないジョーに、今更ながら頭痛がしてくるフランソワーズだった。

「なんで冗談なんだよ。あーあ、帰りにメシでも食って、ドライブでもして――って予定だったのに」
「しばらくジョーは外出禁止!」
「ええっ。なんでだよ」
「『なんでだよ?』それはこっちの台詞です。大体、テレビでも流れているじゃないの。アナタの、その――ハダカが」

自分で言って、頬が熱くなるのがわかる。

「ハダカじゃないよ。ちゃんと着てる」
「でも、そう見えないでしょ!」
「バカだなあ、真っ裸なわけないじゃないか」
「当たり前でしょっ。もうっ」

街中に溢れているポスターと、テレビで流れているCMは若干違いがあるのだった。

「テレビのほうがずうううっとやらしいわ!」
「・・・色っぽいとかセクシーって言葉を使って欲しいな」
「セクシー?色っぽい?誰が?」
「僕」
「ん、もーーーーっ!!」

フランソワーズはジョーの髪をぐしゃぐしゃっと両手でかき混ぜた。

「わ、何するんだよ」
「だって悔しいもの!」
「悔しいって何が」
「――だって!!」

ジョーの頭を両手で挟み、自分の方に向かせて――そして、言葉に詰まる。真っ赤に染まる頬。

「――いやっ。何だか言うのも悔しいっ」

ジョーのばかばか、と言いながらなおもジョーの髪をくしゃくしゃにする。

「コラ、フランソワーズ。いったい・・・」

彼女の両手を掴んで自由を奪ったジョーの瞳に映ったのは、いままさに泣きそうな顔のフランソワーズだった。

「えっ、なに?」

ぎょっとして慌てて手を離すと、フランソワーズはがばっとジョーの首筋に抱きついて――そのままの勢いで、ジョーをベッドの上に押し倒した。

「えっ?フランソワーズ?」

けれども、フランソワーズは首筋に抱きついたまま何も言わない。動かない。

「・・・フランソワーズ?」

おそるおそる腕を伸ばして彼女をそうっと抱き締める。

「・・・、・・・・・」
「・・・えっ?」

小さい小さい声で言われた言葉。

「なに?」
「・・・・・。・・・・」

やっぱり聞き取れない。
強化された聴覚を持つジョーでも聞こえないくらい、それはそれは小さい声だった。

「フランソワーズ。聞こえないよ」
「・・・・・・知らない。ジョーのばか」

『ばか』だけ聞き取れて、ジョーは苦笑した。そうっとフランソワーズの髪を撫でる。

「・・・そんなに怒るなよ」
「・・・・・・・・・・・・だって」
「ん?」
「だって!」

いきなりフランソワーズが体を起こした。蒼い瞳の端には涙の粒。

「ジョーのこういう格好を知ってるのは私だけだったのに!!」

ジョーの胸に両手をついて、じいっとその瞳を覗きこむ。

「酷いわ、こんなのっ・・・・私だけが知ってるジョーだったのに」

ジョーがみんなのジョーになっちゃうっ・・・と顔を真っ赤にして泣き出したフランソワーズに、ジョーはやれやれと体を起こした。そのまま、彼女を胸に抱き締めて。

「――大丈夫だよ。僕は誰のものでもない」
「だってっ・・・みんな、持ってるのよ、この・・・こんな格好のあなたを」
「うん。でも仕事だよ?」
「わかってるけどっ・・・でも、ヤなのっ・・・」

鼻をすするフランソワーズの髪に優しくキスをして、そうっと耳元で囁いた。

「――だって、きみしか知らないよ?」
「何が?」
「・・・・・・・・それはね、」

 

******

 

「・・・・・・・ば。バカじゃないのっ」
「でも、そうだろう?」
「知らないっ。ジョーのばか。えっち」
「えっちじゃない方がいい?」
「・・・・・そんなこと言ってないじゃない」

どうしてこんな事を真顔でさらっと言うひとが自分のカレシなんだろう?

褐色の双眸を見つめつつ、フランソワーズはしみじみと思うのだった。

 

 

 

後日、ジェットが撮ったジョーのポラロイド写真は全てフランソワーズに回収された。

「もうっ!!アナタたち、いったい何をしてたのっ!?」

写真の束を抱えて、フランソワーズがジェットを睨む。
その日フランソワーズが帰宅する前、ギルモア邸のリビングでは大撮影会が開催されていたのだった。
最初はジョーにCMやポスターと同じ格好をさせていたものの、それでは飽き足らずあれこれ――

「まさかこれを売ったりしようとか考えてないでしょうね!?」
「い、いやぁ・・・まさか。なっ?ピュンマ」

ピュンマへ移される冷たく蒼い視線。

「えっ?僕?僕は何にもしてないよ。なっ、ジェロニモ」

さっとジェロニモへも向けられる氷の視線。

「・・・俺はそこにいなかった」

再び主犯のアメリカ人に戻る氷点下の視線。

「いや、ホラ、だからさ・・・、なっ?ちょっとした冗談っていうか、いいじゃねーか、ネガがあるわけでもなし」
「・・・デジカメも貸しなさい」
「ええっ?何にも撮ってないぞ」
「貸しなさい」

しぶしぶジーンズのポケットからデジカメを取り出し、フランソワーズの差し出したてのひらの上に載せる。

「ピュンマのも」
「ええっ?僕は何にもしてないってば」
「私に嘘がつけると思ってるの?そのポケットの中身がわからないとでも?」
「あ。ズルイぞ。日常生活でちからを使うなんて」
「ほらやっぱり!!」
「・・・・・・・カマかけたな」

ピュンマもゆっくりと尻ポケットからデジカメを取り出し、フランソワーズに渡した。

「これで全部?」
「全部だよ」
「ひでーよな。独り占めかよっ」

ジェットの声に、フランソワーズはつんと顔をそらせ静かに言い放った。

「カノジョの特権よ」

 

だって、ジョーは私のだもん。

「――何か言った?フランソワーズ」

声とともに腕が伸びて、そうっと抱き締められた、ジョーの胸の上。

「ううん。何にも言ってないわよ?」
「・・・そう?」
「うん」

体を起こしてジョーを見つめて。そして、彼の首筋にキスを送る。

「くすぐったいよ」
「いいの。我慢しなさい」

それから、左の鎖骨にもキス。

そして、皮膚に覆われた大胸筋の上にもキス。

それから・・・

「フランソワーズ。くすぐったいってば」
「ダメ」

CMでもポスターでも上手にジョー自身の腕に隠された場所。

「・・・大好き」

ちゅ。

「えっ・・・大好きって、乳首が?」

やらしーなー、フランソワーズ。という声に、

「もうっ、違うわよっ!!!私が好きなのは、ジョーの腕の内側よっ!!」

そこはフランソワーズが世界で一番安心できる場所だった。

 

 

オトナばーじょんもあります。オトナ部屋でドウゾ♪