ここはオトナ部屋です!!御注意ください!!

 

「今夜は離さない」

 

 

いつもは、彼が先に・・・ということはなかった。

だから、滅多にないそれは私にとって驚くというより、ただ戸惑うだけだった。

――置いてきぼりにされた気分。

「あの・・・ジョー?」

小さく声をかけてみる。
先刻から、ベッドに突っ伏したままの彼の表情は見えない。
が、私の声に微かに背中が揺れた。

とはいえ、名前を呼んでみたものの、次の言葉が続かなかった。
――私は大丈夫よ
――よくあることだから。
――気にしないで・・・
どれも適当ではないような気がした。

「えっと、その・・・」

何をどう言ったら、彼はこちらを向いてくれるのだろう?

「んーと、・・・」

言葉を捜す。
――私は平気よ。
――だから気にしないで。
伝えたいのはそれだけなのに、何故かそれだけでは駄目なような気がした。

「え、っと・・・、その、ダメだったわけじゃないし」

ああ、何を言ってるんだろう!?

けれども言葉は止まらなかった。

「だから私は大丈夫だし、その、だから、えっと」

途中で肩越しにこちらを向いたジョーの眼光の鋭さに思考が停止した。

「ええと、だから」

身体を起こすジョーの顔が怒っているみたいで怖い。
掴まれた手首が痛い。

「だからつまり、」

パニックになった私は、口早に話し続けた。

「もう一回、しましょう」

「・・・もう一回?」
「ええ。だからその、」
「・・・また同じだよ、きっと」
「ううん。大丈夫。私も頑張るから!」
「・・・頑張る、って・・・」

訝しそうなジョーの視線を避けるようにうつむく。
だって、こんなこと、とても目を見て言うなんて無理。

「えっと、一緒に、その・・・」
「・・・一緒?」
「そう、一緒。・・・私が頑張るから。あなたと一緒に、その・・・合わせるから。ちゃんと」

言っていて、顔が熱くなっていくのがわかる。

「だから、もう一回・・・」
「――単に満足してないだけだろう?・・・俺のせいで」
「ちがっ・・・そんな意味じゃ」

思わず顔を上げる。

「そういう意味じゃ・・・なくて」

ジョーの視線に泣きたくなってくる。
どうしてうまく伝えられないんだろう?
どんなに恥ずかしくても、きっと――大事なことのはずなのに。

「ひ、久しぶりだから、うまくタイミングが合わせられなくて、だから、私が」
私が悪いの・・・という言葉は、抱き締められたジョーの胸に遮られてしまった。

「――そうだね。フランソワーズが悪い。・・・全部」

胸に抱き締められて、優しく髪を撫でられて。
彼の声はとても優しいけれど、その台詞は冷たかった。

全て私のせい。

胸の奥に重い塊があるみたいに胸が詰まった。
視界が滲んでゆく。
心が――重い。

そう・・・全部、私が悪い。

こういう事は、お互いの理由が半々なのだろうとは思うけれど、
ジョーが先にというのは本当に稀なことだったので、やっぱり私が悪いのだろう。
だけど、そんなにはっきり言わなくたっていいじゃない。

ジョーの冷たい態度に、心も体も冷えそうだった。
抱き締められているのに。

「きみが感じすぎるから。だから――」
あんまり可愛くて、もたないよ。

耳元で掠れた声で言われた。囁くように。

「か、感じすぎる、って・・・」
それって私のせいなの?

そのまま耳を噛まれ、首筋にあてられた唇の熱さに、私は何も考えられなくなってしまった。
先刻まで冷えそうだった心と身体は、あっという間に燃え上がった。

「あの、・・・じゃあ、あんまり感じないように・・・頑張る」

ジョーが私から唇を離し、驚いたようにまじまじと見つめた。

「・・・ばかだなぁ」

そうして、額にキスをひとつ。

「そんなの頑張らなくていいんだよ。――今日のフランソワーズも、僕は」
凄く好きだよ

「でも――」

ジョーの唇が熱い。

「大丈夫。今度はちゃんと一緒に・・・」

そうして深められたキスは、さっきよりずっとずっと熱かった。

 

***

 

数分後、私は身体が熱くなってゆくのに身を任せることしかできなかった。

ジョーはそう言ったけれど、やっぱり、一緒にというのは無理みたい。
だって、今度は私が先に・・・

 

 

 

 

 

2008/10/13初出

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