「起きてください!」

 

 

 ジョーは寝起きが悪い。それはもう、最悪だ。
だから彼を起こすのは私の役割と勝手に決まってしまった。
私が公演で不在のとき、アルベルトやジェットが仕方なく彼を起こしに行ったらしいのだけど
アルベルトは危うく掃射するトコロだったらしいし(それはそれでしてみてもよかったのに)
ジェットは彼の部屋の窓からさっさと立ち去ったらしい。
と、ピュンマが話してくれたことがある(でもピュンマは自分の話はしなかった)。
そんな訳で、ともかく私がいるときはジョーを起こす係なのだった。

「ジョー?起きてる?」
声を掛けつつドアを開ける。
「・・・そんなわけないか」
部屋の主はベッドで死んだように眠っている。

「・・・もう。こんなに爆睡しちゃって。敵に襲われても知らないわよ?」
もちろん、そんな事は有り得なくて、もし私が敵であったなら部屋にも入れずにいただろう。
だったら実は、周囲の事が全てわかってるんじゃないの?
とウタガイのマナザシを向ける。
ということは、とっくに眼が覚めてるってことでしょ?
どうなのよ?

「ジョー?・・・ほんとは起きてるのよね?」

彼のおでこをつんつんしながら声を掛けると、うっすらと眼を開けた。
ほーら。やっぱり起きてた。

「・・・眠い」
「だめよ。もう起きて」
「やだ」
「ごはんが冷めちゃうわよ?」
「・・・それは困るな」
「今朝はジェットが当番なのよ」
「・・・・冷めてもいいや」
「嘘よ。私が作ったの」
うーと低く唸って、身体を起こす。
ジョーは私が作ったごはんは絶対に冷めさせない。
これも以前、なかなか起きてこなくてすっかり冷めたごはんを前に私が泣いてみせたからだ。
だって、せっかく作ったのにどうでもいいみたいにされるとやっぱり悲しい。
しかも「いい。朝は食べたくない」なんて言われたら。
家出しなかっただけ、私は自分を褒めてあげたいと思う。
なので、ジョーは絶対に起きるのだった。

ベッドに座ってぼんやりしてる。
シャツを手渡すと、ぼんやりしながらも受け取りこちらの様子を窺う。
わー。
やな予感。

「・・・フランソワーズ」
「なぁに?」
「・・・ちゅーしてくれたら起きる」
「もう起きてるじゃない」
「眼が覚めない」
「たまには、ちゅーがなくてもいいでしょ?」
「やだ」

・・・駄々っ子なんだから。

「もー。しょうがないわねぇ」
と言いつつ、おでこにキスする。
「ハイ。これでいいでしょ?」
「・・・なんでおでこ」
「ちゅーには変わりないじゃない」

しばし、間。

「前はちゃんとしたのしてくれたのに」
ぼそっと悲しそうに呟く。
でも、ほだされないもん!
これはジョーの作戦なのだから。

「前は前。いまはいま、よ」
諦めたかのようにパジャマを脱いでシャツに腕を通す。
それを確認し、もう大丈夫だろうと踵を返したら。
「隙ありっ」
いきなり後ろから抱き締められてしまった。
抱き締められる・・・というより、羽交い絞めに近い。なぜか。
「003、油断したね?」
寝起きの掠れた声で言う。
「まだまだ甘いな、君も」
「・・・・ジョー、あなたね・・・・」
なんだか脱力してしまう。
こんなに気持ちよく起きられるなら、毎朝ひとりでも起きられるはずよね?

そのまま、再びベッドに座り込むジョー。
「だからさ。ちゃんとしたのをしてくれたら起きるよ」
「もう起きてるくせに・・・」
しょうがないので、唇にちゅっとキスを送る。
「えー、これだけ?」
「そおよ?ちゃんとしたでしょ?」
「・・・もう一回」
「どうしてよ?」
「眼が覚めないから」
起きてるくせに。
「・・・しょうがないわねぇ」
もう一回唇を寄せると、ぐっと抱き寄せられた。
ち、ちょっと・・・待って。

・・・ずるいわ。
こんなキスをするなんて、言ってないのに。

 

結局、朝ごはんは冷めてしまった。

 

 

2008/1/初出

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