こちらはオトナ部屋です!!
御注意ください!

 

超銀 「仕方ない」
注:長いです。

 

 

頭上から注がれる湯。
少しぬるいのがこんな朝にはちょうど良い。

寝起きでシャワーを浴びながら、だんだん覚醒してきた脳と今日のこれからの予定を答え合わせする。

ええと。

シャワーを浴びたら朝御飯を作って・・・トーストとオムレツでいいかな・・・
それから、髪を乾かして化粧をして・・・出かけるまで二時間あるから、髪を巻く時間もあるわね・・・
そうだ、何を着ようかしら。
昨夜の天気予報では春らしい暖かさと言っていたけど、・・・うーん・・・後で天気予報を確認しなくちゃ。
ええと、それから


「よくこんなぬるいシャワーを浴びて平気だね」


柔らかな低音が聞こえたと同時にまるで熱湯(大袈裟じゃないわよ)が降り注ぎ、私は半歩飛びすさった。
が、腰に回された逞しい腕がそれを阻んだ。

「おはよ、フランソワーズ」
「おはよじゃないわよ、熱いわジョー」
「だってぬるいよ。まるで水じゃないか」
「そんなことないわ、ちょうどいいのよ」
「でも僕には足りないな」
「だったら、私のあとにゆっくりどうぞ。離して」
「酷いなぁ。ひとりでシャワーなんて怖いじゃないか。後ろにお化けがいたらどうする」
「何言ってるの、平気なくせに」
「平気じゃないよ。寂しいよ」
「さっきと言ってることが違うでしょ。あん、もう、どこ触ってるの」
「フランソワーズの体を洗うのが僕の使命だ」
「真顔で言うのやめて」
「僕は真剣なんだ」
「自分で真剣っていうひとのことは信じないことにしてるの・・・も、やめてってば」
「目が覚めたらひとりだったんだよ僕。寂しくて泣きそうだった」
「なによそれ」
「責任とって」
「知らないわよ」

ああもう。

せっかくゆったりしたひとりの朝だったのに。
ジョーのせいで台無しよ。

「昨夜からずっと一緒にいるじゃない」
「さっきいなかった」
「あなたに付き合ってたらお昼になっちゃうわ」
「少し泣いた」
「え?嘘でしょ」
「・・・・・・」

ああ神様。
最強のサイボーグが、朝起きたら独りだったせいで泣くなんて、私はどうしたらいいのでしょう?

ずっと隣にいればいいって?

だってそんなの、下手したら一生そうじゃない。

一生。


・・・一生?


ああもう。


仕方ないわね。


仕方ないわ。

甘えんぼうのジョーさん。

 

***

 

[SIDE J「独りぼっち?」]

 

目が覚めたらフランソワーズがいなかった。

なぜだろう。

ぼんやりした頭で筋道たてて考えるのは至難の技である。
いまの僕にそんな風に考えることが可能かどうかわからない。
が、考えてみなければフランソワーズがどうしていなくなったのか謎のままだ。

・・・昨夜、フランソワーズを抱き締めて眠った。

腕に抱き締めて眠ったから、これは確かだ。腕が覚えている。

でも。

いついなくなったのかは残念ながらさっぱりわからない。
僕の記憶は、フランソワーズを抱き締めて目を閉じたところで途切れ、続きは今目を開けたところになるのだから。
熟睡したのか、間の記憶は皆無だった。

「・・・フランソワーズ」

僕を置いてどこかに行ってしまうなんて酷い。
目覚めたら真っ先にフランソワーズを見たかったのに。

おはようのキスもしたかった。

それ以上のこともしてもいい。

そんな風に考えていたのに。

僕はフランソワーズがいたはずのシーツを撫でた。
それはすっかり冷たくて、大分前に彼女は消えていたことを思い知らされた。

酷いよ。

僕に黙っていなくなるなんて。

僕を独りにするなんて。

あれもこれもしたかったのに。

僕の視界が若干ぼやけて、鼻の奥がつんとし始めたその時。
シャワーの音に気が付いた。
そういえば、さっきから聞こえていたような気がする。

「フランソワーズ」

僕は花の香りに誘われる蜜蜂のようにバスルームに向かった。
僕を独りぽっちにした罪は重いよ、フランソワーズ。
僕はちょっとでもきみが視界から消えるのは嫌なんだ。
不安で落ち着かなくなる。
知ってるよね?
だって僕は、きみのストーカーなんだから。

逃がさないよ。

今日も明日も。

いまのこの一瞬も。


僕はバスルームのドアを静かに開けた。
大好きなフランソワーズはすぐそこだった。

 

***
***

『一緒』

 

せっかくシャワーを浴びていたのに。
さみしがりで甘えんぼうのジョーに捕まり、シャワーを浴びる意味がなくなってしまった。
洗い流したはずなのに。私は再びジョーの匂いに包まれる。ジョーの体液に。
唾液とか汗とか涙とか(涙はないだろうって?あるのよ、ジョーに限って)その他もろもろ(ここは察して頂戴)に。
熱いジョーの体。
ジョーの好きなお湯の温度より体のほうが熱いなんてどうかしてる。
私、溶けちゃうかもしれない。
シャワーを浴びながら。
ジョーのせいで。

それにしても、どうしてそんなに独りが嫌なのかしら。
確かに昔から苦手だったみたいだけど、更に苦手度が増しているように感じる。
執拗なキスと執拗な愛撫を受けながら、どこか冷静に考えている。

どうしてジョーはこんなにこの行為に夢中なの?
昔からそうなの?
独りがダメなのも昔からずっとよね?
ということはつまり、それを埋めるための行為なのかしら。全て。

・・・なんだか悲しくなってきた。

だったら私は、彼と過去に何らかの接触のあった女性たちと同じということだ。
たまたまそばにいて、彼の孤独を一瞬でも埋めることができるという。
ただそれだけの存在。意味なんてないのだ。
こうして夢中で愛されるのも。
抱き締められるのも。
ただ私が彼の近くにいたから、だから・・・

「フランソワーズ、こっち見て」

ジョーの甘い声。
繋がっている時に優しく言われたら、誰でも従うだろう。
私も同じ。
ゆっくり顔を挙げてジョーの目を見ると、彼の律動が止まった。

「・・・ジョー?」
「フランソワーズ。・・・僕はフランソワーズじゃなきゃ嫌なんだ。わかってるよね?」

わからない。
今のこの状況でなら、なんとでも言えるかもしれない。

「フランソワーズは、僕じゃなくても平気?」
「・・・え?」
「こうしているのが僕じゃなくても」
「何言って」
「いつか僕がいなくなったら、僕を忘れて他の誰かと・・・」
「・・・」

まったく、もう。
何を言い出すのかと思ったら。
この状況でそんな事を言う?
泣きそうな顔で。
私、いま誰と繋がっているのよ。

「ばかね。ジョーじゃなきゃ嫌に決まってるでしょ」


ジョーの孤独は永遠かもしれない。
そしてそれを埋めるのは、たまたまそばにいる女性なのかもしれない。

だったら。

これから先、私がいちばん側にいる。近くにいる。
ジョーに選択の余地なんて与えない。
だって、私がジョーじゃなきゃ嫌なんだから。

「だめよ。私から逃げようなんて」

それに。

「私の体を洗うのがあなたの使命なんでしょ?」

答える代わりにジョーに激しく突き上げられ、私は彼にしがみつくしかできなかった。

私たちはたぶん、一緒にいるのがいい。

これからもずっと。

 

***
***

『エンドレス』

 

結局、バスルームを出たのは昼だった。
すっかりのぼせて、這うようにして冷たい床に転がった。

「も・・・ジョーのばか。いい加減、ふやけちゃうでしょ」
「僕のせい?最後までねばったのは誰だよ」
「知りません。たぶんジョーよ」
「あ。酷いなあ。僕はもういいだろって何度も言ったよ?」
「ま。自分だけ満足してさっさと終わるなんて酷いひと」
「違うだろ。フランソワーズだって何度もいったじゃないか」
「アラ、そうだったかしら?」

脱力して床に転がっていたけれど、フランソワーズのあまりに意地悪なセリフに僕は彼女の側まで這い寄った。

「自覚してないなんて言わせないよ?」

溶けたようなマナザシを僕に向けるフランソワーズは物凄くセクシーだった。

だから、

「いや、いい。わからなかったなら、これからわからせるから」

フランソワーズの目が驚いたように丸くなる。
ふん。そんなに心配しなくても大丈夫さ。まだ精魂尽き果てたわけじゃない。
まだまだいけるさ。相手がフランソワーズなら。

「・・・ジョーのばか」

もう無理よと言いつつ、でもどこか嬉しそうなのは僕の欲目ではないだろう。

 

***
***

『いくじなし』

 

お互いのお腹が鳴って気が付いた。
私たち、朝からなんにも食べてない。

「ジョー?」
「ん」
「お腹空かない?」
「空いた」
「そうよね」

予定では、オムレツを食べて髪を巻いて今頃は出かけているはずだったのに。
私は、ひとの上で脱力している最強サイボーグに軽く膝で蹴りを入れた。
もちろんびくともしない。
でも、眠そうな顔をこちらに向けたから効果はあったと思う。

「ん。なに?」
「ごはん。作るから退いてくれない」
「えー」
「えーじゃないでしょ。お腹空いたんでしょ?」
「うーん。・・・いいよ。我慢する」
「しなくていいの、そんな我慢」
「いざという時のための練習」
「そうゆうのは、いざという時のためにとっておけばいいでしょ」
「んー」

体の上から退く気はないらしく、ジョーはわざと体重をかけてくる。いい加減重い。

「ジョー?」

ジョーは寝たふりをしている。
が、代わりに彼の腹が返事をした。
お腹空いてるくせに。

「ジョーったら」
「いやだ」
「でも、そろそろ服を着てもいい頃よ?」
「フランソワーズと離れたら僕は生きていけない」
「大丈夫。生きていけるわ」
「自信ない」
「ちゃんとあなたの視界にいるから。ね?」
「・・・消えない?」
「消えたことないでしょう」
「さっき消えた」

ああもう、しつこい。

先にシャワーを浴びただけでここまで言われるものかしら。
ジョーのこの粘着質なところはどうにかならないだろうか。

「消えないから大丈夫よ。ね?パンツ履いて起きましょう」
「・・・そんなこと言っていなくならな」
「ならないってばもう。いくじなしなんだから!」

と言ったら、嘘みたいに鼻をすすったので、私はジョーをしばらく抱き締めているしかなくなった。

いったいいつになったら私たちは起きてごはんを食べられるのだろう?

 

***
***

『侮れない』

 

考えてみれば、朝からずっと――否、正確には昨夜からずっとかもしれない――二人で揺れているような気がする。
もちろんそれは、僕たちが相手を抱き締めたままでいるからなんだけど。

当然のことながら、僕だけのせいじゃない。
フランソワーズのせいで僕らが揺れていることもある。

大体、こういう行為はフィフティーフィフティーのはずである。
互いにあれこれ試行錯誤していくのが楽しかったりもするわけで。

うん。

確かに楽しいんだけれど。
さすがにちょっと疲れたなぁ。
ごはん、食べてないし。

「…ねえ、フランソワーズ」
「なあに?」
「疲れない?」
「…ジョーは疲れたの?」

そんなことを言えるわけがない。
男の僕のほうからそれを言うなんて、敗北を認めるようなものだ。沽券に関わる。

「いや、別に」
「そうお?」

そういうフランソワーズは元気だった。
バスルームを出た後は二人とも疲労困憊の体だったけれど、あれは高温高湿度のせいだったのかもしれない。
そのあとリビングの床で存分に愛し合ったあと、あちこち痛くなったから再びベッドに移動した。
お互いに眠りそうだったけれど、なぜか眠らずに飯も食わずになんだかこうなってしまっている。
ベッドのスプリングが軋む。
今はフランソワーズが頑張っている最中だ。だから僕はのんびりこんなことを考えている訳で。

「…フランソワーズ」
「なあに?」

元気だね。

と。

何かを察したのか、フランソワーズの動きが止まった。
僕の肌に汗が落ちる。

「ジョー」
「ん」
「なんだか上の空ね?」
「そうかな」
「ええ。…飽きてきた?」
「まさか」

そんなわけはないだろう。楽しいし没頭しているに決まっている。

「楽しいよ」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
「二回言ったわ」
「え」
「それって嘘の証拠」
「ちがっ」

前触れもなくフランソワーズに締め上げられ、情けなくも僕は苦鳴をあげた。

…いや、まったく…

…侮れないよ、きみは。

「フランソワーズ。最後の一滴まで搾り取る気?」
「あら、いけない?」
「いや…」

…いいです…

 

 

***
***

『帰れない』

 

「ねえ、ジョー」
「ん?」
「隠したでしょう、私の下着」
「下着?・・・知らないな」
「ちゃんとここに置いておいたのに」

私は数時間ぶりにジョーから離れることに成功していた。
体にバスタオルを巻きつけ、そもそもの始まりであるバスルームへ向かった。
朝、シャワーを浴びる為にジョーの腕を抜け出し、その時に着替え一式も一緒に持っていった。
だから、脱衣カゴのなかに私の下着と部屋着が置いたままになっているはずなのだ。
やっとその場所へ行って、数時間ぶりに服を着ようとした…の、だけど。

ない。

ないのだ。
下着が。

部屋着はある。でも下着がない。
こんな不思議なことってあるだろうか。

「どうしてなんでもかんでも僕のせいになるんだい?」

ジョーがあくびをしながら言う。
彼もまたバスタオルを腰に巻きつけたままの格好だ。
別にふたりとも風呂上りというわけではない。
なぜかベッドルームの床にバスタオルが落ちていたのでそうなった。裸でいるよりましだろうということで。

「だって」

私の下着を隠して知らん顔する…なんて、いかにもやりそうなんだもの。

「あなたしかいないでしょう」
「そんなことないだろ。別の場所に置いたってこともあるだろうが」
「それは、そうだけど…」

そう言われると、確かに自信はない。でも。だとしたらいったいどこだろう?
ここが自分の家だったら、下着ひとつでこんなに困りはしない。収納から一枚出すだけのことだ。
でもここはジョーの家。私の着替えを何枚もストックしていたりはしない。だからパンツ一枚だって大事なのだ。
とはいえ、こんなバスタオル一枚でふらふらしているのも心もとないので、私は部屋着に着替えることにした。
部屋着といっても、Tシャツとパイル地の短パンだ。
下着をつけないで着るというのもなんともフリーな感じだけど、ないよりはまし。
そう自分に言い聞かせて身につけると、そのままベッドルームに戻った。
私の下着があるとすれば、ベッドの周辺のはず。あるいは、ジョーが隠しそうなところといえば…

「――そこにはないよ」

振り返ると、戸口には腕組みしたジョーが立っていた。

「ジョー。いい加減、着替えたら?」

あなたの家なんだから、着替えは山ほどあるでしょう。

「いやだ。メンドクサイ」
「だって、タオル一枚なんて風邪ひくわよ?」
「ひかないよ」
「寒いくせに」

それには答えず、ジョーは腕組みを解いた。

「フランソワーズのその格好、なかなかそそるね」
「えっ?」

ジョーはあっという間に彼我の距離を詰めると私を羽交い絞めにした。

「ジョー?」
「知ってる?こうすると寒くないんだ」
「知らないわよもう」
「…だってフランソワーズが誘っているから」
「誘ってないわよ」
「そうかな。凄くセクシーなんだけど」

そのままシャツの上から胸を撫でられ、不覚にも声が洩れてしまった。

「さっきから僕に見られてるの知ってたよね?」
「知らないわそんなの。ね、離して」
「いやだ」
「私の下着はどこなの」
「言ったらきみは帰るだろう?」

はっとしてジョーの顔を見ると、妙に真剣な瞳をしていた。

「帰したくないって言ったって、いつか帰ってしまうだろう?」
「だって、それは…でも、すぐじゃないわ」
「すぐじゃなくても帰る準備を始めるよね?」
「だって、ずっとこうしているわけにはいかないわ」
「どうして」
「だって、」

だって、私たちが会う時は有事の時だけで、だから…

私が黙り込むと、ジョーの手がシャツのなかに侵入してきた。
直接肌に触れる彼の手は熱い。その熱い手が私の胸の先端に触れる。

「ジョー、やめ」
「やめないよ」

言うと、彼は私をベッドに押し倒し、そのまま脚を持ち上げた。
柔らかい生地の短パンをずらし、早急に侵入してくる。

「ジョー、待って」
「いやだ」
「だって、さっきからずっと」
「それが何?全然足りないよ」

そのまま貫かれ、私は声を上げた。
さっきよりも乱暴に揺らされる。

…まったくもう。

帰る帰らないが絡むと、寂しくなってしまうのか本当にわがままになってしまう。
そしてそれが行為にも反映されて荒々しい。
優しいときもあるし、これでもかというくらい丁寧で慈しむように愛してくれることもある。
でも、かと思うとこんな風に自分の気持ちだけで進めることもあって、…本当に困ったひと。

でも。

嫌いになれない。

嫌いにならない。

だから。

「…帰らないわよ」

もうしばらくは。


熱い息のなか、ジョーがちょっと笑ったようだった。

 

 

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