こちらはオトナ部屋です!!
御注意ください!

「かわいい」
〜リビングではいけません!〜

 

 

クリスマスの夜。
リビングでケーキを一緒に食べていた私たち。
二人っきりだったし、だんだんふざけてお互いがお互いに食べさせたりじゃれていて
ほっぺについたクリームを指ですくってなめてみたり、髪についたところにキスしたり
なにしろ最初は、私の頬についたクリームをジョーがぺろってなめただけだったのに。

気付いたら、あっさりと服を脱がされていた。

ジョーが私の頬にキスしたあと、唇にもキスしてきたから意識がそこに集中してしまってて
本当に「いつのまにか」だった。

こんな時、いつも
ジョーは手馴れている・・・と思う。
だから少し悲しくなる。
少しだけ。

「・・・かわいい」

甘い声が響く。

「好きだよ。フランソワーズ」

いつもはくれない言葉をたくさんくれるジョー。
普段も言って欲しいのに。

「・・・かわいい」

でも。
この『かわいい』っていうの、繰り返されるとちょっと微妙・・・。

「・・・ジョー?」
胸元の甘い痛みに顔を歪めつつ、小さく彼の名を呼ぶ。
「・・・なに?」
彼が少し顔を上向けて、下から私の顔を覗きこむ。
「あのね」
けれど、一瞬ちょっと微笑んだジョーは私の顔を見つめたままさっきと同じ行為を繰り返す。
私は咄嗟に言葉に詰まり・・・何を言いたかったのかわからなくなってしまった。
「・・・かわいい」
もう一度ジョーが言う。それで思い出した。
「・・・あのね、ジョー。私の胸って・・・小さいわよ、ね?」
「え?」
びっくりした瞳できょとんと見つめるジョー。
「その・・・だから。他のひとよりも・・・」
言いながらうつむいてしまう。
だって。
前から思っていたの。
普段から、ジョーの周りにはスタイルが良くて綺麗な人ばかりいる。グリッドガールとか。色々。
だからジョーはそれに慣れてしまっていて、そういうプロポーションの人を「普通」と思うのかもしれなくて。
私なんて、彼女たちと比べられたら敵うわけがない。
だからジョーが私の胸を見て「かわいい」って言うのは、それは小さいからかわいいっていう意味であって。
だから・・・彼にそう言われると、誰かと比べられてるような気分になってしまう。

「・・・誰かに何か言われたのかい?」
ジョーが身体を起こして、私を抱き締めながら言う。
「誰に言われたの?」
さっきまでの甘さが消えて、驚くほど低い声。
えっ・・・怒ってる?
どうして?
抱き締めていた腕を緩めて、私の瞳を覗きこみもう一度言う。
「ね。誰に言われたの」
ジョーの瞳が怖くて、ただ黙って首を横に振る。
「フランソワーズ。僕に言えないこと?」
なおも黙っていると、そっとジョーは頬を寄せて私の耳を軽く噛んだ。
「許さないよ。僕以外の誰かとこんなことしていたら」

「ちがっ・・・!」
そんなことしてない。
そんなのしない。
どうしてそう思うの。
どうしてそんな事言うの。
ジョーに疑われた事が悲しくて、急に涙が出てしまった。
「・・・ひどい、ジョー・・・」
ジョーの肩に手をかけて、そっと押し戻す。
「どうして、そんなこと・・・」
あなたの方こそ、私を誰かと比べているくせに。
「フランソワーズ」
嫌い。ジョーなんて。
「泣かないで」
あなたのせいよ。
「ゴメン。そんな事、しないよね?」
小さく頷く。
「ゴメン。僕が悪かった。・・・泣かないで」
優しく抱き締めてくれる。髪をそっとなでて。
「ゴメン。・・・しないよね?してないよね?」
当たり前でしょ?ジョーのばか。
「ゴメン」
そう何度も言って、あなたは私の髪にキスして、次に額に、次に目元に、次に頬に・・・
たくさん、たくさんキスをくれた。私が泣き止むまで。
そして首筋にキスして、少しずつ下りてゆく唇。
「・・・・っ」
軽く息を吐くと、また胸元で「かわいい」って聞こえた。
・・・やっぱり。
「ジョー・・・そう言うの、やめて」
私の胸に顔を埋めたまま、ジョーが面倒そうに「何で」と問う。
「だって・・・」
次の言葉を言う一瞬前、すっと心が冷たくなった。
「誰かと比べられているみたいでイヤなの」

「何だよそれ」
憮然とするジョー。
「比べるって、フランソワーズを?」
「うん」
「僕が?」
「・・・ええ」
ジョーは長く息を吐くと、ごろんと私の隣に寝転んだ。そうして、片肘ついて改めて私の顔を見つめる。
「どうしてそんなこと」
「だって・・・」
「うん?」
「私、スタイル良くないし。ジョーの周りには綺麗なひとがたくさんいるから、だから」
「僕が彼女たちと君を比べていると思ったの?」
頷く。
「私、・・・その、胸が大きくないから・・・彼女たちと比べて」
ジョーはただ黙っている。
「だから、・・・あなたが『かわいい』って言うの、その・・・胸が小さいからかわいい、っていう意味なんでしょう?」

思い切って言ってしまった。
きっと図星よ。
だからジョーは黙ったまま、何も言わない。
・・・言うんじゃなかった。
改めて確認しても、何にも楽しい事なんてないのに。
ただ悲しくなるだけなのに。
私ってバカだ。
ジョーが私を誰かと比べているって、彼に確認してどうするつもりだったの?
だからってジョーを嫌いになったりなんてできないのに。
悲しくなるだけなのに。
知らなくてよかったのに。
言うんじゃなかった。
フランソワーズのバカ。
自分で言って、自分で勝手に悲しくなってる。
ジョーは何も言わない。
無言の肯定。
フランソワーズのバカ。
いいじゃない、ジョーが私を誰と比べていたって。
胸の奥が、ちょっと冷たくなる、それだけの事じゃない。
彼がそう言うたびに誰かを思い出していたって、私にはどうしようもできないのだから。
言わないで、って言っても、それは私のワガママでしかなくて。
私がどうこうできるものじゃない。
私ってバカだ。
ただ、ジョーの事が好きで・・・好きで、だから私だけを見ていて欲しくて
ただそれだけの事だったのに。
わざわざ聞いて確かめなくてもいいことまで知ってしまった。
どうしよう。
どうしたらいい?
黙ったまま見つめているジョーに耐えられなくなって、目を逸らす。
我慢できなくて溢れてくる涙を見られたくなかった。
ジョーのばか。
何か言ってよ。
フランソワーズのバカ。
ジョーの気持ちまで独り占めなんてできるわけないじゃない。
いくら私の心の中はジョーでいっぱいでも。

「・・・ふーん」
なんだか興味なさそうなジョーの声が響く。
私がワガママ言ったから呆れちゃったんだ。きっと。
・・・イヤだな。ジョーに嫌われるの。
ほんのちょこっとでも、嫌われるのはイヤだな・・・
「・・・!」
思考が中断される。だって、ジョーの手が私の胸に触れている。
「・・・やっぱり、かわいい」
ジョーの方を見ると、とっても嬉しそうに笑っていた。
なに?
なんなの?
「ジョー・・・やめて」
「やだ」
「だって・・・」
ひどい。どうして『かわいい』って言うの?
あなたの手のひらに包まれた胸が小さいからかわいい?
誰かと比べて小さいからかわいいって言うの・・・もうたくさん。
「・・・いや。お願い、ジョー」
「やだってば」
「だって・・・」
「だって本当にかわいいから。僕のフランソワーズ」
・・・今さらそんなこと言わないで。
もうやめて。
「あのね。僕が君のことをかわいいって言うのは・・・」
ジョーの指が優しく私の胸をなぞる。
「・・・・ジョー・・・」

「ほら。君がこういう顔をするのが・・・」
たまらなくかわいいんだよ。
耳元で言われた。
「え?」
「僕が誰かと君を比べてるって?ひどいな。どうしてそんな事思いつくんだよ」
軽く睨まれる。優しい瞳で。
「かわいくてかわいくて、食べちゃいたいのにさ」

 

そうして私はジョーに食べられてしまった。

 

 

 

 

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