こちらはオトナ部屋です!!
御注意ください!

「ちょっと待って!」

 

 

その日、僕はフランソワーズを膝の上に抱いてテレビドラマを見ていた。
別に興味はなかったけれど、フランソワーズが凄く楽しみにしていたから付き合った…という感じ。
内容はどうやら恋愛もののようで、10分もすると僕はすっかり飽きてしまった。
せめてアクションものかミステリーものだったら良かったのになあ。
腕のなかのフランソワーズはというと、すっかりドラマに入り込んでいて僕のことなど眼中にない。
もしかしたら、いま僕の膝の上にいることも忘れてしまっているかもしれない。

「フランソワーズ…?」

ためしに呼んでみる。が、いまいいところなの話しかけないでオーラを返される。
だから僕はちょっとしゅんとしたものの、おとなしくしていたんだ。…30分くらいは。

フランソワーズは僕の膝の上で微動だにせず画面を見ている。

画面はヒロインの相手役がなにかごちゃごちゃやっていて、ドラマは佳境のようだった。
フランソワーズは僕に見向きもしない。
もちろん、CMに入ればこちらを気にしてはくれたけれど、それでも今の台詞良かったわよねなどというドラマの話ばかり。
僕はすっかり置いてきぼりだった。

ああ、つまらないなあ。
どうして二人きりでいるのに、こうもつまらないんだろう。

もちろんそれは、フランソワーズが構ってくれないからだ。ドラマなんか早く終わればいいのに。
僕は退屈だったのと構ってもらえなくて悔しいのと寂しいのが混じりあって、フランソワーズにちょっかいをかけることにした。
だっていま、彼女は僕の膝の上にいて腕のなかにいるんだぜ?
完璧に僕のパーソナルスペース内だろう?何をされても文句は言えない筈だ。
とはいえ、最初はおずおずと指先を薄手のニットの裾に侵入させるにとどめた。
が、フランソワーズは気づいてないのか、あるいはどうでもいいのか全くの無反応。
なんだか腹が立って、僕は堂々と手をニットの中に入れるとフランソワーズの胸を探り当てた。
更にブラジャーの中に指を入れようと…したところで、フランソワーズに睨まれた。

「もう。いまいいところなの、邪魔しないで」

邪魔って、ひどいなあ。
僕の膝の上にいるのにそんなこと言うの?
諦めず、更にごそごそやっていたらフランソワーズの後頭部が僕の鼻先にヒットした。
頭突きなんて、しかも後頭部頭突きなんてひどいやフランソワーズ。
僕は手を引くと自分の鼻が潰れてないか確認した。軽く鼻血は出たけれどたいしたことはない。が。
僕は反省するより俄然燃えた。
こうなったら、何がなんでもフランソワーズの注意をこっちに向けさせるぞ。ドラマなんかどうせ録画もしてるんだ。後で見ればいい。

僕は再びフランソワーズを抱き締めると、今度はスカートの中に手を入れた。
太ももを触り更に奥へ。
フランソワーズは動かない。
よし、いいぞ。
ドラマに熱中しているのかあるいは僕にされるがままになりたい願望があったのか定かではないが、抵抗されないのはいい兆候だ。
僕はショーツに到達すると、優しく撫でるように指先で触れた。

「んっ…も、邪魔しないで…」

フランソワーズが軽く身をよじる。が、強い拒否はない。
それに勇気づけられて、僕は更に優しくリズミカルに撫で上げた。

「ん、ジョー、ちょっと待って…」
「ん。何が?」
「あともうちょっとで終わるから…」
「待てないよ」

だってほら、だんだんショーツが湿ってきてるじゃないか。
僕は我慢できずにショーツの中に手を入れた。

「ん、ジョー!」

その途端。
電光石火の早業でフランソワーズが立ち上がった。

「まったくもう、どうしてあとちょっと待てないの!いまいいところだって言ってるでしょ!」

仁王立ちで言い放つと、そのまま僕を無視してドラマの世界に戻って行った。
酷いよ、フランソワーズ。
僕はというと、フランソワーズが立ち上がると同時に顔面パンチを受けており、現在床に転がっている状態だ。
確かめてないけど、きっと頭のどこかがへこんでいる。変な音がしたからわかる。ああ、僕はきっとこのまま死ぬんだ…。

「死なないわよ、メソメソしないの!」

まるでひとの心が読めるかのように抜群のタイミングで入るツッコミ。
さっきまで僕に反応してたくせに、どうしてこうも冷たくなれるんだろう。
転がったまま、うらめしく下からフランソワーズを見ると一瞬目が合った。

「ばか。後でね」

後で?

後でって言った?

それってあとどのくらい?

けれどもフランソワーズは再び視線をテレビに向け、もうこちらを見てはくれなかった。
だから僕は、さっきまでのフランソワーズの潤みを思い出しながら、このドラマは何時に終わるのだったかなと思いを馳せた。

 

(ちなみに三時間のスペシャルドラマでした)

 

***

***

 

 

「ジョー。…ジョー?」

 

ドラマが終わった。
いつもの月9ドラマではあったけれど、今回はスペシャルでありずっと楽しみにしていたものだった。
さすがに三時間は長かったな…と見終わって伸びをしたところで、
床に伸びたままになっているジョーに今更ながら気がついたというわけだった。

足元にうつ伏せになったまま微動だにしないジョー。

後頭部がやや凹んでいるように見えなくもないが気のせいだろう。なにかあってもサイボーグ。このくらい日常茶飯事だ。すぐ治る。
それより、名前を呼んでも反応しない方が気になった。ドラマの間、構ってあげなかったからいじけているのだろう。

「まったくもう…」

後でねって言ったじゃないと口の中で呟くと、床に膝をついてジョーの頭を撫でた。
やはり凹んでいる。が、出血や体液の流出はない。そうっと髪を避けて、ジョーの顔を見る。
うつ伏せなので横顔しか見えないが、ぴったり目を閉じておりどうやら眠ってしまっているようだった。
ドラマの間、さんざんちょっかいかけてきたくせに、いざドラマが終わったら無反応。

なんなのよ、それ。

なんだか理不尽に腹が立った。

ドラマが終わったら、ジョーに構って欲しかったのに。

構って構われたい気持ちはジョーに負けないとフランソワーズは自負している。ただ、時と場合を選んで欲しいだけなのだ。
例えばドラマくらい、ゆっくり見させて欲しい。終われば、いくらでも時間はあるのだ。

「…」

フランソワーズはしばしジョーを見ていた。が、思い付いてジョーをごろんと仰向けにした。
構って欲しいのはこちらも同じ。特に、ドラマが終われば自分はジョーだけに時間を使いたいほうなのだ。
なのに、勝手に寝るなんてなんだか置いてきぼりをくったようで納得いかない。
ただでさえ、さっきまでアクティブにちょっかいかけてきていたジョーを思い出すとなんだか落ち着かないのだ。
しかも色々中途半端だった。

「ジョー…」

眠っている。それはもう確実に。
いつもなら、そのまま寝かせるところだったが今日はそんな寛大な気持ちになれなかった。

フランソワーズはそっとジョーのジーパンに手をかけ、ゆっくりとファスナーを引き下ろしていった。

 

**

 

 

翌日。

目を覚ましたら、そこはフランソワーズの部屋だった。
どうやら僕は、ドラマが終わるのを待ちながら眠ってしまったらしい。
床に転がったままだったけど、枕が頭の下にあり、体には毛布がかけられていた。優しいなあ、フランソワーズ。
僕は幸せな気分になった。
まあ、ドラマが終わったなら起こしてくれれば良かったのに…とちょっと残念な思いはあるけれど。
でもきっと、僕がぐっすり眠ってしまっていたから仕方なかったのだろう。フランソワーズはそういうところは優しいんだ。
体を起こそうとしてふと気がついた。昨夜と体の向きが違うことに。
寝返りでもしたのかな。
床に寝ていて寝返りしても起きなかったなんて僕は本当にすっかり眠っていたんだな…と、苦笑しながら体を起こした。
毛布を畳もうとして…あれ。ジーパンのファスナーが開いている。
…?
寝ている間に脱ごうとしたのかな。ボタンも外れているし。
改めてファスナーを上げながら、そういえば…と夢うつつのなかのあやふやな記憶を思い出した。
そう。なんだか淫靡な夢を見ていたような気がする。温かいものに包まれていたような。

…いや、気のせいだろう。

昨夜、フランソワーズに触れた記憶が何やら艶っぽい願望になって夢に現れたのだろう。
いやだなあ、フランソワーズの部屋でなんて夢を見るんだまったく。
なんだかいけないことをしたような後ろめたさに囚われ、僕は早々に部屋を出た。

そして。

トイレに行って、物凄く驚いたのだった。

 

**

 

「ふっ、フランソワーズっ!」

僕はキッチンに飛び込んだ。

「あらジョー。おはよう」

朝御飯の湯気と共に振り返るフランソワーズ。

「おはようじゃないよっ。なんだよこれ!」

僕は自分の股間を指差した。
フランソワーズはちらりと見たがすぐに目を反らした。

「やあね、朝からやめて頂戴」

つんとすました顔で味噌汁の味見をする。

「ちがっ…そうじゃなくて!きみだろう?こんなことするのはっ」
「他に誰がいて?」
「なんてことするんだっ」
「だって、寝ちゃうから」
「だからって…誰かに見られたらどうしてくれる」
「誰かって、誰?私以外に見せるつもり?」
「えっ、あ、いや…」
「他に見せるような相手がいるなら別だけど」

きらりと光るフランソワーズの瞳。

「え、い、いないよ。いるもんか」
「そ。よかったわ」
「いや、全然よくないっ」
「もう。朝からうるさいわねえ。いいじゃない、どうせそのうち消えるんだから」
「そういう問題じゃないだろ、フランソワーズ!」

そう。そういう問題じゃないのだ。
なにしろ、その…僕の大事なところには油性マジックで名前が書いてあったのだ。
たぶんフランス語だろうけれど、Fで始まっているからフランソワーズって書いてあるんだろう。
何が悲しくて恋人の名前が書かれなくちゃいけないんだ。
いたずらにもほどがあるだろ!

「だって、ジョー」

フランソワーズはくるりとこちらに向き直るとはにかむように床に視線を落とした。

「自分のものには名前を書くのがふつうでしょ?」

 

ああもう、

 

その時の僕ときたら。

 

フランソワーズを押し倒す以外に何もできなかった。

 

 

End

 

///

おまけ

 

 

「ところでフランソワーズ」

スカートの裾を直しているフランソワーズを眺めながら、僕は昨夜見た夢の話をした。

「妙にリアルだったんだけど…」

僕、眠っている間に変なことやらかしてなかっただろうな?と心配になった…の、だけど。

「えっ?夢?」

フランソワーズがこちらをじっと見た。なんだか妙にセクシーな眼差しで。

「夢…、さあ、どうかしら」

思わせ振りに唇をぺろりとなめた。

え。

いや、まさか。

 

まさか。

 

だって、いくらなんでも目が覚めるはず…

 

「フランソワーズ?」

「さ、朝御飯にしましょ」

 

まさか。

 

ねえ、フランソワーズ。
昨夜、本当は何があったんだ?

何をしたの?

 

2016/9/30up(2015/4/26初出) Copyright(C)2007 usausa all rights Reserved.