「脚線美」

 

 

なんだかもじもじしているジョーである。
それは新作発表の撮影のせいでは決してない。が、まるっきり無関係なところでもじもじしているのかというと、それがそうでもないらしく、先刻から目のやり場に困っているようだった。

「あのさ、フランソワーズ」
「なぁに?」
「その…きみの脚にクモがついているみたいなんだけど大丈夫?」
「えっ、クモ…?」

フランソワーズが己の脚を見ている間にジョーは視線をそらせた。
ミニスカートにすんなり伸びた脚。どうにも気になって仕方ない。が、ずっとそれに目がいっていたなんて、009たるべきもの悟られるわけにはいかなかった。

「やあね、ジョーったら!」

あさってのほうを向いていたジョーの腕にフランソワーズの手が触れた。

「これはタイツの模様よ!クモじゃないの、よく見て頂戴」

そうしてそのまま腕を引かれ、屈んだ目の前に出現したのは網タイツに包まれたフランソワーズの膝だった。

「なっ、えっ、ちょっ…」

ちょっと待ってくれよ。

というジョーの動揺は、生憎フランソワーズには全く通じていなかった。

「ね?クモじゃないでしょう?」
「う、うん…」
「綺麗でしょう」
「えっ!?」

まさか己の脚を自慢?

と耳を疑ったジョーであったが。

「このタイツ一目惚れして買っちゃったの。今日の撮影にはどうかしらって思ったんだけど監督はいいって言ってくれたから」
「ふうん、そうなんだ」

監督がフランソワーズの脚をどんな目でみているのか非常に気になるジョーであった。

「破けなくてよかったわ。まさかダイビングするとは思わなかったもの」
「…そうだね」

破けたらそれはそれでいいかもしれない。と思った事も勿論内緒である。

「ところでジョー?」
「うん?」
「そろそろいいかしら、その…あんまり見られていると恥ずかしいわ」

フランソワーズの脚をガン見していたジョーは、はっと我に返った。

「それに防護服に着替えなくちゃいけないし」

まだ撮影は続くのだった。


最後の防護服姿のショットで009がやや仏頂面なのは、フランソワーズの綺麗な脚が隠れてしまっているからなのかどうかは定かではない。