「セカンドラン」

 

 

 

「映画、そこそこヒットしているみたいだよ」


ジョーがにこにこして言うのにフランソワーズは眉間に皺をよせた。


「ヒットしている、に、そこそこっていう形容詞はどうかしら。相反してると思うけど」
「大ヒットではないけど、って意味だよ」

細かいなあと呟いたところで頬をつねられた。

「もう、ジョーったら。全然わかってないのね」
「何が?」

溜め息をつくフランソワーズをジョーは抱きよせた。抱き寄せて、そのまま彼女の首筋に鼻を押し付ける。

「だから、……打ち切りの心配をしてってこと」

くすぐったいわという言葉に耳を貸さず、ジョーはフランソワーズに甘えるのを続けた。

「打ち切り?それはないだろう」
「……わかってないのね」

楽観的な恋人である。

「今週はまだいいわ。でも…来週末はあれが公開になるのよ」
「あれ?」
「そう。あれ」

何が気に入ったのか、フランソワーズの首筋に今は唇をつけているジョー。そのせいか、話をしても少し上の空な彼にしょうがないわねとフランソワーズは内心肩をすくめた。実際、こういう彼は嫌いではない。

「EVAが公開されたら…」

最悪、三週間で上映打ち切りもあるかもしれない。

「そんなの、わからないさ」
「そうだけど…」

心配なのよといいかけたその唇をジョーは塞いでいた。

「そんな心配はそうなった時すればいいさ」

そうかもしれない。
でも…撮影、頑張ったのに。

そんなフランソワーズの思いが通じたのか、ジョーが本腰をいれてキスを始めた途端、彼の携帯電話が鳴った。

「……」
「………ん(ジョー、電話よ)」

「…………」
「……………んんっ(ジョーったら)」

「――うるさいなあ」

渋々唇を離すと、ジョーはめんどくさそうに電話を受けた。

「もしもし?はい、そうですが――えっ!?ほんとですか!」

その瞬間、まだ通話中にもかかわらず、ジョーは携帯電話を放り投げるとフランソワーズを抱き上げていた。

「きゃっ、なにっ?」
「セカンドランが決まったぞ!」
「えっ!?」
「ほらみろ、打ち切りなんてあるわけないっ!」

くるくる回るジョー。

くるくる回されるフランソワーズ。

数分後、目が回って揃って床に倒れたけれど、ずっと笑いっぱなしだった。