「93派」
「で、原作からの93派のひとたちが大喜びしているそうよ」 つまりそれって歴代の009がはっきりしないから、二人の恋路を応援するファンができたってことじゃないかっ。 歴代009のツケを自分が払うことになりそうな嫌な予感しかしない。 そんなに期待されても困る。 ふたりのプライベートと被る内容が映像化されてしまうかもしれない。 ファンサービス? 見てろ。 ほんとのファンサービスってやつをやってやる。 その時になって驚くなよ、フランソワーズ。
「93派?」
「9と3」
「?」
「つまり、私とあなた」
ジョーはしばらくきょとんとしていたが、意味がわかった途端真っ赤になった。
「な、なんだよっ93って…っ」
「ゼロゼロナンバーの下一桁」
「や、そうだけど、なんだよその派って」
「さあ?私たちのファンなんじゃない?」
ぐしゃぐしゃと頭を掻くジョーにフランソワーズはにっこりした。
「いいじゃない。私たちのことを応援してくれてるのよ?」
「応援って……」
ジョーとしてはただただ恥ずかしかった。
「でね、配信中のツーショットで盛り上がり中」
「……」
にこにこと言うフランソワーズにジョーは頭を抱えていた。
もちろん、フランソワーズとそういうアレコレはやぶさかではない。
が、そんなアレコレをひとつひとつじっくり見られてしまうのかと思うと……
「まあ、いいじゃない。映画なんだし」
「……まあ、な」
「そ。演技なんだし」
「……そうだ、な」
機嫌の良さそうなフランソワーズとは対称的に、ジョーはだんだん不機嫌になっていった。
しかし、機嫌のいいフランソワーズは気付かない。
「……どうするんだい、ラブシーンとか増えたら」
「いいじゃない。どうせ演技だもの」
「ふうん?」
「ファンサービスよ」
ファンサービス、ねぇ。
ジョーは考えていた。
なのにフランソワーズは気楽すぎる。
きっと、演技だから例えキスシーンがあろうが減るもんじゃないと思っているのだろう。
冗談じゃない。
ふたりの時間はふたりだけのものだ。
そんなにそれをしたいんだったら。
「ん、なあに、ジョー。どうかした?」
「いや別に」
演技じゃなく本気でしてやる。
妙に底光りする瞳の奥で、ジョーは決意していた。
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