「寝癖」
「プライドをかけて頑張るつもりさ、もちろん」 「なんたって映画だし、しかも3Dだぞ」 しかし、対するフランソワーズは何やら考えこんでいるようで返事は無い。 「フランソワーズ、聞いてる?」 心配なこと。 それは、挙げたらきりがなかったからフランソワーズは軽く頭を振ると笑顔を作った。 「ううん、ないわ」 フランソワーズは目の前につき出されたジョーの後頭部を見て小さな溜め息をついた。 そして今日は、今回の撮影のためスタッフがジョーの髪をさんざん撮影していったばかりなのだった。
そう言ってジョーは胸を張った。
「えっ?あ、ごめんなさい」
「ダメだなぁ。いいかい、僕たちは今までの009たちと違ってテレビじゃなくて映画なんだよ?最初からスクリーンなんだから気合いをいれていかないと」
「…それは、そうだけど」
「何か心配なことでもあるのかい?」
「だったらもっと元気出さないと」
「ええ、そうね。…ただ」
「ただ?」
「その、3Dになるとアナタのその髪が」
「髪?」
「ちょっと気になって」
「嫌だなぁ、そこはみんなプロなんだしちゃんと描いてくれるよ」
「ん…でも、寝癖が」
「寝癖?」
「気付いてないでしょう?そんなところも忠実に表現されちゃったらどうしようかしら」
「え、ちょっと待ってフランソワーズ、寝癖なんかついてないだろ?」
「……」
「いや、黙るところじゃないからフランソワーズ」
「……」
「ほら、よく見てよ!」
ジョーは気付いていないが、いったい何度、彼の頭を撫でるふりして寝癖を直してきただろうか。
フランソワーズが彼の寝癖を直す前に。
「ね?大丈夫だよね、フランソワーズ」
あのまま忠実に再現されたらジョーの髪は寝癖のまま…?
「ねえ、フランソワーズ」
でも、案外わからないかもしれないわね。今まで3Dになったことないんだし。
「ええ、大丈夫よ」
フランソワーズはにっこり笑うとそのまま彼の頭を抱き締めた。