「えっ、本当に予告に使うんですか!?」
フランソワーズが珍しく声を荒げていた。それも監督に向かって。
撮影が始まって以来、こんなことは一度もなかったから、監督をはじめその場にいたスタッフはただただ驚いていた。
「いや、綺麗に撮れたし、ファンはこれを待っていたと思うし、いいかな、って…」
「冗談じゃないですっ」
「いやでもホラ、きみだって綺麗に撮れているじゃないか」
モニター画面を指す。
そこにはさきほどのジョーとのラブシーンが流れていて――
「いやですダメです、絶対無理っ!」
「いやしかし」
「絶対にイヤですっ」
目尻に涙をためつつ迫るフランソワーズに、監督はおろおろと助けを求めるように周囲を見回した。
が、フランソワーズの剣幕に恐れをなしたのか誰も目を合わそうとしない。
監督が参ったなあと天を仰いだその時。
願いは聞き届けられた。
「フランソワーズ、落ち着くんだ」
ジョーがどこからともなく現れて、フランソワーズの肩を掴んだのだった。
「だってジョー!」
「大丈夫だから」
「何言ってるのよっ、だいたい」
くるりとジョーに向き直り、フランソワーズは怒りの矛先をジョーに替えた。
やれ助かったと監督はそうっとその場から逃げ出した。
「――だいたい、あなたがいけないんでしょうっ」
「なんのことだい?」
「だって、あのキスっ……」
「――うん?」
全く悪びれず、笑みさえ浮かべてフランソワーズを見つめるジョー。
その顔を見た瞬間、フランソワーズは全てを悟った。
「ジョー、あなたまさかわざとっ……!」
「さあ?なんのことかな」
「ばかっ」
ばかばかひどいわ、とジョーの胸を打ちつけるフランソワーズをジョーは意に介さずぎゅうっと抱き締めた。
そしてその耳元に囁いた。
「――だってさ。きみとのキスに本気を出さないわけないだろう?」
そう――あのキスは。
先日、演技なんだからいいじゃない減るもんじゃないしと言ったフランソワーズへのささやかなジョーの復讐であった。まさに狙っていたのだ。
――ふん。カメラが回っていようがどうだろうが関係ないね。
フランソワーズとのキスはいつだって真剣だ。
スクリーンに映し出される、恋人同士の本気のキス。
フランソワーズはジョーの腕のなかで、ばかばかジョーのばかと繰り返すのだった。
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