「マウスパッド」
「ねぇジョー、知ってる?」 「いろいろなグッズが売られているって」 知ってるよ――とジョーはにっこり笑った。 「確か、前売券にも何かオマケがついているんじゃなかったかな」 映画の合間にスタジオで何枚も写真を撮られたんだ疲れたよと息をついた。 「そうなのよっ」 と急に大きな声を出したので驚いた。 「な、なんだい、急に」 フランソワーズは持っていた紙コップを握りつぶした。 「やっぱり私だけだったんだわ!」 ジョーがびくびくしながら訊くと、フランソワーズは大きくため息をついた。 「だって水着だったのよ!映画では水着になんてならないのに」 そうだね、それは酷いね――とジョーが生温かく笑ってみせた時だった。 「…なんか変だわ、ジョー」 フランソワーズの瞳がきらりんと光った。 「なにか知ってるんでしょう、ジョー」 フランソワーズが迫るのでジョーは一歩二歩とじりじり後退した。 「まるで何か知っているみたい」 ジョーは言えなかった。 そしてそれが自分の家にあることも。
それは夏の暑い日のことであった。
映画の撮影も佳境に入り、忙しくしていた時のことである。休憩時間に映画の販促品の話になったのだった。
「ああ、そうらしいね」
すると、フランソワーズが
「スタジオで撮影したのよっ」
「うん、僕もしたよ。疲れるよね、ああいうのって」
「ジョーはどんな格好だった?」
「へ?」
「へ?じゃなくて」
「どんなも何も――防護服だけど」
「ああ、やっぱり!」
「え、と…何が?」
そして、ジョーに聞いて頂戴と迫った。
「はぁ」
「絶対、何か販促品に使われているに違いないのに、詳細を誰も教えてくれないの。酷いと思わない?」
「う、うん――」
「え、知らないよ」
「だっておかしいもの。いつものジョーだったらそこは怒るところでしょう。水着なんておかしい、って。なのにどうして怒らないの。まるで…」
水着姿のフランソワーズの写真がマウスパッドになっていることを。