「衣装の件」
いよいよ半年後にせまった映画公開。それに向けて撮影は順調に進んでいた。 …と、いうような諸々のことは当事者たちにとってどうということはない。 が、しかし。 「あら私ってバレリーナじゃないのね」 とか 「どうして僕は高校生なんだろう…?」 とか 小出しにされた情報は謎を多く含んでいた。 これはそんな撮影の合間のひとこまである。 「…あのさ、フランソワーズ」 並んでロケ弁当を食べながら、ジョーがちらちらとフランソワーズの様子を窺う。 「なあに?」 対するフランソワーズは黙々と食事を進めている。 「その、前から気になってたんだけど」 フランソワーズと目が合って、ジョーは慌てて視線を外すと猛然とごはんを口に運んだ。 「どこか変?破けてるとか?」 ごはんが口にいっぱいでちゃんと答えられないジョーである。 「もうっ、そんなに口に入れるからでしょ。ほら、ごはんつぶついてる」 そう言ってフランソワーズが手を伸ばし、ジョーの口元についているごはんつぶを取りぱくっと食べた。 「私の衣装、そんなに変かしら」 ごはんを飲み下し、箸を置くと真っ赤な顔のままジョーがフランソワーズに向き直った。 「そうじゃなくてその、体の線が出すぎだろってこと」 フランソワーズは自分の衣装を見て、そして次にジョーの衣装を見た。 「私は好きよ。ジョーの学生服姿」 嫌いではない。むしろ好きである。が、そういう意味で言えばフランソワーズがどんな格好をしていようがジョーは彼女を好きなのだった。 「……綺麗だよ」 にっこり笑うフランソワーズに見惚れていたら、いつの間にか休憩時間が終わりを告げていた。 彼女の衣装について有耶無耶になってしまったことを思い出したのは、その日撮影が終わって帰宅してからだった。
また、今まで秘密だったことが少しずつメディアに公開されるようになり、否が応でもファンの期待は高まるのだった。
ジョーの弁当はまだ半分くらいしか減ってないのに対し、フランソワーズのそれはほぼ空に近い。
「ええ」
「きみのその服装、ちゃんと衣装係に言ったほうがいいよ」
「えっ?」
「ううう」
「似合わない?」
「うう」
途端、ジョーの頬が真っ赤に染まり弁当を食べる手が空中で静止した。
「そ、そうじゃなくて」
「…そうかしら」
「そうだよ、駄目だそんな格好」
「似合わない?」
「に、似合うけどでも」
「あら良かった」
「良くないよ、全然っ。そんな体にぴったりした服なんか。スカートも短いし」
「…ジョー、こういうの嫌い?」
「き、嫌い…じゃ、ない…けど」
「じゃあ好き?」
「えっ!?」
「えっ!?」
「詰襟って男の子っぽいし」
「お、おとこのこ、って僕は」
「ね。私は?似合わない?嫌い?」
「き…」
「うふ。よかった。ジョーも素敵よ」
そのままそれぞれの撮影に向かう途中、ジョーは何か忘れているような気がした。
(おまけ・その夜の電話)
「衣装のことだけど、昼間言うの忘れてたよ」
「あら、記憶喪失?役作りさすがね」
「いや、そうじゃなく…フランソワーズ」
「ふふ」