フランソワーズは昨日帰っていった。


いつまでも泊まっているわけにいかないわ、着替えも必要だし

そうウインクして手を振った。
ジョーは、心のなかでは止めたかったけれど出来ずに見送った。


別に同棲してるわけじゃないし。

・・・同棲したいわけでもないし。

どうせ、すぐまた会えるんだ。


だから別にいい。

そう思ったのは本当だった。


ただ。
三日三晩、彼女が隣にいるのに慣れてしまった。
そして彼女がいる朝にも。

慣れてしまった身には、目覚めたら彼女がいない状況は、――。

だからジョーは、ぼうっとリビングに向かい、ぼうっとテレビをつけ、ぼうっと録画したものを呼び出した。


『おはようございます』


「おはよ、フランソワーズ」


『間違いないわ。今日もきっとハッピーよ』


「うん。そうだね」


停止。

 

再生。

 

『おはようございます』


「おはよう、フランソワーズ」


『今日もきっと一日ハッピーよ』


「そうだね、フランソワーズ」

 

停止。

 

・・・再生。

 

 

ジョーにとって、今日はハインリヒがZIP当番であるのはどうでもいいことであった。

そして、繰り返しフランソワーズの映像を見ている彼は、その彼女が朝ご飯と共にもうすぐ到着することにも気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

ドアを開けたらフランソワーズがいた。

にこにこして、提げていたバッグを目の前に掲げた。
いったいなんだろうとジョーが考えていたら、朝ごはんよと言われた。

そんなわけで、数分後はこんなことになっていた。


「はい、ジョー。あーん」
「ん」
「・・・どう?」
「うん。おいしい」
「ウフ、良かった。・・・はい、あーん」


テレビ画面を見たフランソワーズとひと悶着あったが、それもいまは終わった話。

やっぱり実物のほうがいいに決まってる。


「でもジョーばっかりずるいわ」
「ん?」
「私もジョーに『おはよう』って言われたいのに」
「おはよう」
「んもう、そうじゃなくて映像でってこと」
「フーン」

ジョーは待っても次のひとくちが来なかったので、自分のフォークで食べた。
フランソワーズは視線をあさっての方へ向けてすっかり独り言モードである。

「毎朝よ?・・・ジョーにおはようって」
「この卵焼きうまい」
「あ、でも明後日は出るんだっけ、テレビに」

ジョーがむせた。

「生放送よね。・・・大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ」
「それを録画すればいいんだわ!」

ジョーは咳き込みながら、横目でフランソワーズを見ていた。
そして咳がおさまると、

「録画なんかしなくても毎朝言ってやるよ、それくらい」

そうぼそりと言うと席を立った。

「コーヒーのおかわり取ってくる」
「えっ?でもジョー、」

キッチンに消える後ろ姿。
それを見送り、フランソワーズは考えていた。


毎朝言ってやるよ、って、それって・・・


「・・・電話くれるって意味かしら」

首を傾げた。

テーブルの上にはコーヒーサーバーが載っていた。