「・・・ずるいわ、ジョーばっかり」


ひとり自室のリビングで、フランソワーズはぼんやりと朝の情報番組を見ていた。

ずるいというのは、昨日ジョーがフランソワーズの録画映像を視聴していたことである。
そんなの、フランソワーズだってジョーのがあれば観たい。

しかし彼の順番はまだ回って来ないのだ。
だからどんなに観たくても手元にはもちろんないし、放送されるのを待つしかない。


「朝から会いたいのは私だって同じなのに」


ジョーのばか。

何よ、自分ばっかり。


それに、


「そうよ。おはようって毎朝言ってやるって言ったくせに、」

うんともすんとも言わない電話。
まったくもって着信しないメール。

「ばか」

傍らの携帯電話を指で弾く。

時刻はまもなく6時40分。ジェロニモの登場までもうすぐだ。


その時、インターホンが鳴った。
朝のこんな時間に訪ねてくるような客はいない。しかも、マンションのエントランスからのコールではなくドアチャイムなのだ。同じ階の住人だろうか。いや、それにしてもこんな時間に訪ねては来ないだろう。

フランソワーズは思わず目のスイッチを入れた。

そして見た。

そこにジョーが立っているのを。


「え、なんで」


どうして。

彼が自発的にこんなに早く起きるわけがない。
ならば・・・何かがあったのだろう。

鍵を開けるのももどかしく、ドアを開いた。


「ジョー、いったい」
「おはよう、フランソワーズ」
「え・・・」
「言っただろ。毎朝言ってやるって」


弾む息。

流れる汗。

 

そして、笑顔。


「・・・走ってきたの」
「うん。あ、加速はしてないよ」
「・・・電話じゃなかったの」
「え。うん、・・・まぁ、ね」
「ここまでどうやって」
「ちょっとジャンプした」

マンションの屋上まで上がってから外廊下に降りたらしい。

「驚くかなと思って」
「・・・驚くわよ。ばか」

そしてジョーの首に腕を回した。

リビングからジェロニモの声がする。


『パワー全開で行こう!』


本当ね。ジェロニモ。


フランソワーズは目の前のパワー全開なひとを抱き締めた。

 

 

  

 

 

約五分後。

いきなり映画予告が始まり、いちゃいちゃしていた二人は驚いた。
しかも監督まで映っているのだ。

なんだか段々盛り上がってきているようで、二人は若干の緊張を覚えていた。


「そういえば、明日は生出演よね?ジョー」
「う」
「大丈夫?」
「・・・知らない」

 

その前に、今夜は都内で試写会と舞台挨拶が待っている。