午前6時30分。
ドアチャイムが鳴った。エントランスからの解錠を求めるインターホンではなく。

フランソワーズは溜め息をつくと立ち上がった。
まさかとは思うが、残念ながら彼には前科がある。

目のちからを使う気にもなれず、あっさりとドアを開けた。


「おはよう、フランソワーズ」


流れる汗。

弾む息。

くしゃくしゃの髪。


そして、笑顔。


「……おはよう」

しかしその笑顔はすぐに渋面に変わった。

「不用心だな、フランソワーズ。今、確認しなかっただろ」
「……」
「大体、このマンションの構造も気に入らない。外から玄関は見えないけど、吹き抜けになっているからいったん屋上に上がれば誰でも中に入れる」
「………」
「屋上なんて、隣のビルから簡単に飛び移れるし」

簡単ではない。優に数十メートルは離れている。それに、そんな風に入ろうとするのはアナタしかいないわとフランソワーズは思ったのだが、黙っていた。

「――電話じゃなかったの?」
「ん?」
「朝のおはよう」
「僕、電話するなんて言ったっけ?」

靴を脱ぎながらジョーが言う。
フランソワーズは記憶を辿った。確かに言ってなかったかも――しれない。

でも、だったら。

彼の言うところの『おはようくらい毎朝言ってやる』は、どういう意味だったのだろうか。

首を傾げながらリビングへ行くと、ちょうど006のZIPコールだった。


『今日も一日、熱い気持ちでいこうアル』


「熱い気持ち、かぁ」

ジョーは小さく頷くと、フランソワーズを振り返った。

「あのさ。こんな危険なマンションじゃなく、セキュリティのしっかりしたところへ移らないか?」
「えっ?」
「例えば、……ヒルズとか」
「――」

 

……ヒルズはジョーの住むマンションである。