結局、昨日はフランソワーズに会えなかった。

脳裏にフランソワーズの涙が浮かび、いてもたってもいられなくなったジョーである。
息せききって彼女のマンションに向かったのだが、当のフランソワーズは不在だった。

早朝から出かけるなんて聞いていない。

もちろん、彼女の予定を逐一知る必要はないし、フランソワーズだってジョーに伝える義務はない。
わかっている。
が、しかし、ジョーは落ち込んだ。

やっぱりフランソワーズはわかっていてはぐらかしているのであり、今日のこれは拒絶なのだろう。

そう思った。


落胆しつつの帰途は体が重かった。
その日一日気が入らず、生出演の番組も何をどう終えたのか記憶にない。

いっそこのまま記憶をリセットできたらいいのに。

などと思ってみた。
撮影の時は、そんなこと思ってもみなかったのに。


そして、今日である。

また朝がやって来た。


しかし。


今日はフランソワーズの所へは行かない。
もしも今日も不在だったらと思うと、どうにも腰が引けてしまう。

我ながら情けないとは思うが、「フランソワーズに避けられる」のは考えたくも経験したくもない。
だから、経験しないようにするためには行かなければいい。

そんな消極的な方法をとるしかなかった。

 

 

 

 

「ねぇ。ジョーに言わなくていいの?」


くりっとした瞳がひたとフランソワーズを見つめる。
咎められているようで、フランソワーズは少し体を引いた。


「別に、ジョーは関係ないもん」
「ふうん?」


朝6時40分。

フランソワーズは自宅ではなく友人の家にいた。昨日から泊まっているのである。


「逃げてるんだ?」
「違うわよ」
「だったら会えばいいじゃない。どうしてうちに避難してるの?」
「トモエちゃん、迷惑?」
「んー、そうねぇ…彼氏を呼べないかな?フランソワーズがここにいると」
「あ、ひっどーい!」
「あら、酷いのはフランソワーズでしょ?私にだって彼氏くらいいるのよ」

そう言ってトモエはいたずらっぽく笑った。
彼女は映画の出演者で、撮影を通して仲良くなったのである。

「彼氏に会うと元気になるし。フランソワーズだって、そうでしょ?」
「ジョー?」
「そ」


元気になる。

一昨日の朝、戸口に現れたジョーを思い出した。

流れる汗、弾む息、くしゃくしゃの髪。
そして、笑顔。


「……元気になる、かしら……」
「だって昨日からずっと元気ないわよ?ジョーを避けてるせいでしょ」

なんで避けてるのか意味がわからないわとトモエは続けた。
フランソワーズは膝を抱え、考えこんだ。

「だって……」
「だって、何?」

トモエがフランソワーズの顔を覗き込んだ時、テレビからピュンマの声がした。

 

『大きな元気、見つけてきたぜ』

 

「きゃっ、ピュンマ様っ」
「……様?」
「ほら、フランソワーズ。ピュンマ様も言ってるし」

さあ立ってと手を引く。

「あなたの元気に会ってきなさいな」
「え、でも」
「いーい?今から彼氏が来るの。アナタは邪魔。とっとと帰る。OK?」
「わ、わかったわ」


そしてトモエに背中を押され、フランソワーズは部屋を後にした。

 

向かうのは、ジョーのマンション?